移動の進化によって変わる都市と生活

移動の進化によって変わる都市と生活

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坂本 貴史
スマートモビリティ事業推進室 室長
株式会社ドッツ
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川路 武
経営企画部 ビジネスイノベーション推進グループ グループ長
三井不動産株式会社
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清水 宏之
MaaS & Smart Infrastructureソリューション本部
日本マイクロソフト株式会社

移動が変われば人の流れや動きも変わっていきます。移動が効率化されていく中で、都市はどうあるべきなのでしょうか。そのキーワードは「連携」と「デジタル化」でした。

自己紹介

坂本:モデレータの坂本です。私は元々デジタル業界でUXデザイナーをしておりましたが、2〜3年前に日産自動車へ参画し、インパネ周りのソフトウェア開発に携わってきました。先日までやっていました東京モーターショーで出展された電動SUVの「ARIYA コンセプト」や軽自動車初のEVコンセプト「IMk」は私も参加したプロジェクトです。
2019年より株式会社ドッツにて、鉄道事業を主にしているクライアントさんのMaaSをお手伝いしております。それ以外では個人で有志団体を立ち上げ先日、「MaaS×Card」でクラウドファウンディングを実施しました。

川路:三井不動産は東京を中心にビル・商業・ホテル・物流施設などを手掛ける会社です。私たちは当然ながら交通事業者ではありませんし、モビリティのメーカーでもなく不動産業者です。そのため、モビリティに関する知識・経験・サービスをほとんど持ち得ておりません。

数多くのアセットを扱っていますが、今まではこれらをつなげるだけでなく、人々がこの場所に来る目的や移動する手段まで意識していなかったのです。ビルやホテルのデジタライゼーション・デジタル化はもちろんですが、そこまでの経路のデジタライゼーションはまだ未開の地。そこを私たちのアセットで魅力的にしていく余地があると思い、フィンランドのMaaSプラットフォーマーであるMaaS Global社に投資をして業務提携いたしました。

今日は、まちづくりと移動について、旧来型の不動産会社がモビリティの変革期をどう捉え、何を考えているのか、お話できればと思っております。

清水:私は日本マイクロソフトでMaaSとスマートビルディング/スマートスペースのソリューションを担当しています。前職は鉄道系の情報システム企業でシステムエンジニア、プロジェクトマネージャーをしておりました。
マイクロソフト自身は自社で事業を次々と立ち上げる会社ではありません。MaaSを使って社会を変えていこうとする企業の支援、サポートという立ち位置の会社です。MaaSにおいては従来からインフラ周りのお手伝いをしてきましたが、もっと踏み込んで行こうと昨年、MaaSの専門部署を立ち上げました。そこではMaaSを利用するシナリオ、たとえばユーザーにとって良いサービスとは何か、MaaSがあることによって街はどうなるのかを考え、それらを実現するために取り組んでおります。

なぜ、自動車業界ではない企業がモビリティに取り組むのか

坂本:本セッションでは3つのテーマを用意しました。自動車メーカーではない企業がモビリティに取り組む理由、MaaSの手前にあるデジタル化について、そしてスマートシティの次の未来までについてお伺いできればと思っています。
まず、川路さんは20年ほど不動産業にいらっしゃるとのことですが、“モビリティ”という言葉を聞いたのはいつ頃からですか?

川路:ここ1〜2年だと思います。

坂本:「モビリティに取り組む」という話が出たとき、どんな印象を受けましたか。

川路:今まではマンションに駐車場を設置するとき、どの大きさのどの車種が入れるようにするか、平面的な考えで場所を作ってきました。ですので、車を週に何回ベースで利用しているのか、車が有効利用されているのか、この駐車場は効率的なのか、移動の流れまでは考えていなかったんです。モビリティの波が急激に押し寄せているいま、弊社が運営している賃貸住宅の駐車場の何%に車が駐車していて、どんなペースで稼働しているのか、まずここから理解を深めるじゃないか。賃貸住宅に限らず、誰がどう動いているのかを知ることからだと思ったのです。

データで状態・状況が可視化されると、今まで面積や高さなど平面的に見ていたものから、何人が何%利用するかという情報に注力するようになります。このように不動産の考え方も変わっていくんだろうなと感じましたね。

坂本:車が置かれる駐車場をモビリティの視点で見直しがかかったということですね。

川路:シチュエーションも大事です。施設とモビリティは非常に密接というか、近い場所にありますから。MaaSの概念にはレベルがそれぞれ設定されていて、最高レベルのレベル4では「政策の統合」とされています。ここに達する前に、まちやモビリティが変化し、マンションの形も変わっていくでしょう。

坂本:マイクロソフトの清水さんにもお伺いしたいと思います。なぜマイクロソフトがモビリティに取り組むのでしょうか?

清水:私自身は3年前にマイクロソフトへ転職しましたが、前職では就業時間が厳格に定められていて、毎朝決まった時間に通勤して、お客様のもとへ訪問したら事務所へ戻って作業して…と、事務所を起点に移動していたんですね。マイクロソフトでは、私が入社した年にコアタイムがなくなり、テレワークが基本になりましたので事務所に行く必要がありません。とはいえ、顔を合わせて実施するミーティングの重要性は認識していますので、必要な際は事務所に向かいます。

ただ、転職してから移動がガラッと変わりました。私は業務上、日々、様々な場所へ訪問しています。訪問先から訪問先への移動で空いた時間はコワーキングスペースで作業したり、テレワークしたりしますが、移動が多いと自分でルート検索することすら面倒になってしまう。

私は効率の良いルートを探すノウハウを持っている方だと思いますが、テレワークが広がって効率的に仕事ができる環境が整いつつあるのに、移動の検索に手間取る時間がもったいない。また、移動しながら電話したい人もいるでしょう。そこで、モビリティサービスがもっと便利にならないかなと考えるようになりました。また、マイクロソフトとしても働き方改革を推進していますし、仕事は要素としてMaaSとの関係性が高いと思いましたので、取り組まない理由はないなと。

坂本:仕事×MaaSですね。

“仕事場所”で考えると、川路さんが先ほど述べられたような施設にもつながっていきますね。私もメーカーとデジタル系エージェンシーに在籍していた経験がありますので、清水さんがおっしゃる働き方の違いには頷けるところが多々あります。
とくに面倒だと思ったのが交通費精算です。今ってICカード決済が一般的だと思うんですが、職場ではその日の移動をぽちぽちとエクセルで細かく入力して紙で提出するとか…実は地味に負担が大きい。そういう細かな部分から変えていくべきだと思うのですが、どうでしょうか。

川路:その日の移動の履歴ってアウトプットなんです。たとえば、Outlookと検索とが結びついて簡単に処理できるようにするとか。

清水:実際にそういうサービスを開発している企業はありますし、今までにもサービスがあると認識していますが、そもそもOutlookのデータを会社の外に出したくないという最大の課題が目の前にあって。企業からすると、どの企業に訪れて、どの企業と話を進めているかは機密情報ですので、外部のサービスに予定表を連携させること自体、ハードルが高いのです。
なので、データを自分の手元に置いて、自分をハブにしてサービスを結びつけていくスタイルにしなければ難しいと思います。

坂本:最近では、業務効率を謳ったアプリやツールも数多くありますし、設定次第で各種サービスやツールを結びつけることもできますしね。

清水:最近はオープンAPIといって、自社サービスを外部でも使える仕組みを公開しようという動きが盛ん。そういう点でもインフラが使いやすくなってきた印象はありますね。

MaaSの手前で考えるべき各業界のデジタル化

坂本:仕事の現場でデジタル化ができてない場合も多いと思います。クライアントと話をしていても、そもそもデータがない、もしくはビッグデータを管理している部署にはデータはあるけど、活用方法わからないのでどうすればいいですかと聞かれることもあります。実は、デジタル化というキーワードのほうが、MaaSとかモビリティ以前に重要かもしれません。デジタル化の推進という文脈で、川路さんから何かご意見ございますか。

川路:耳が痛い話ですね。遅れている業界なので、デジタル化に追いつけていない部分があるんです。不動産の情報自体もほとんどできてないのではないでしょうか。
たとえば、エントランスの開閉に関するあらゆる情報がデータ化できれば、昨夜怪しい人が侵入した、何時何分に犯罪があったという貴重な情報がわかり、適切な警備体制を整えることができます。最先端のビルにはそのような仕組みを取り入れていますが、すべての施設ではありません。

フィンランドでWhimというMaaSアプリを提供しているMaaS Globalさんと提携し、取り組みを進めていく中で、一番時間がかかっているのがデータ連携のところです。いかにデータとAPIの整備ができていないかという現実をようやく理解しまして。MaaSで人とモビリティがつながる未来が近づいていますが、まずはデジタルトランスフォーメーション(DX)で今ある情報をデジタル化してつなげない限り、進みたくても進めないのです。

坂本:たとえば、この企業やこのツールは連携がうまくできていると思うものはございますか?

川路:先月サンフランシスコに行き、slack社の方々とお話をさせていただく機会がありました。slackは、とにかくAPIで様々なものをつないで、まるでリモコンのように、slack内で完結できるアプリです。たとえば経費精算の場合、領収書をアップして/concurと入力すると、わざわざ経費精算アプリを立ち上げなくても登録できます。今はより多くのツールをつなぐことだと彼らも言っていましたね。

IT企業だからつなぐのも早いのだと思いつつ、私たちアナログのリアルアセットの業界もデジタル化できるものはつないでいかなければ、進化に追いつけなくなりそうです。

清水:slackと同じようなMicrosoft Teamsというグループチャットソフトウェアや、マイクロソフト以外のサービスと簡単につなげる仕組みを作っていますし、マイクロソフトも“自社サービスだけ!”ではなく、最近はオープン思考へと変わっています。デジタルの世界はそもそも“つながる”ことが基本ですからね。

モビリティの世界、鉄道業界もそうですが、カーシェアみたいなサービスが普及しても車の開錠をどうするかで苦労されていたりするんですよね。予約システムでカーシェアが予約できるようになっても、そこから物理的な利便性を解決するまでの道のりの方が長いんです。

坂本:実際にご自身が出張や旅行などで移動する場合、どうされていますか?

清水:私は移動が大好きなので、先日訪れた高知でも行きは飛行機で帰りは寝台列車でわざわざ帰ってきました。

坂本:予約はどうされましたか?

清水:ネットから予約しました。ただ、鉄道業界はまだ切符は紙で出力しなくてはならない。デジタル化の観点で言うと、遅れています。でも、海外に行くとQRコードでOKなんです。QRコードをはじめ、向こうではデジタルの世界をうまく活用しています。日本は考え方そのものを変えていかなくてはならないのかもしれません。

坂本:川路さんは全国を移動される時、どうされていますか?

川路:一週間の予定をすべて日曜日の夜にまとめて、Aの打ち合わせとBの打ち合わせの間は移動が必要だからどの手段なら一番無駄がないか、まとめて一気に検索しているんです。そうすると予定がどんどん埋まって行くのですが、ぱっと見た感じ、訳がわからないっていう (笑)

清水:打ち合わせが伸びたときはどうしていますか。

川路:感覚的にA駅からB駅まで3駅と分かっていると焦ることはありませんね。それでも、遅れた時はスマホで再検索しています。私は調べるのも嫌いじゃないし、実はバスに乗るのも好き。バスに乗っていると街が見えますから楽しいんです。

坂本:(移動を楽しむというのは)素敵な話ですね。実際にバスでもオープンデータの話がありますが、詳しく調べると大きな課題もあります。ウェブ上でキーワード検索して出てこなければ、存在していないのと同じだということがSEO対策をするうえで言われますが、経路検索に出てこなければ、バスも存在しないのと同じだという見方もあります。

実物はリアルなのに、その存在はサイバースペースの中にある。したがって、そのサイバースペースに存在するのか、そのうえで利用価値や露出も含めて考えていかないと利用者にはなかなかリーチしにくいんじゃないかなと思います。清水さんはどう思われますか?

清水:路線バス以外にもコミュニティバスが街を走っていますし、事業者としてもそれらのデータを集約すること関しては試行錯誤されているようです。一方で企業がプライベートで走らせているシャトルバスも世の中にはたくさんありますが、本当に効率よく利用されているのかは疑問ですし、あわせて考えるべきではないでしょうか。運転手の数も限られていますし、モビリティの維持という観点で各サービスの効率をあげるべきだと思います。

お客様からは、働き方改革でMaasを利用したいと言われることが最近増えています。働く人用のMaasと地方、観光Maas、それぞれ需要があるのであれば、うまく連携し、用途に応じて同じ移動媒体の用途を変えていくとか。効率を考えるとそういう方向性も含めて考えるべきではないでしょうか。ただ、運送法など、制限はいくつかあるんですが。

スマートシティの次の未来

坂本:維持するとなると、経済的な観点でも考えていかなくてはなりませんね。交通機関を所有しているのは交通業者ですが、そこに住む人や生活する人にとってみれば移動手段の一つです。しかし、こうしたインフラがあることを前提に住まれるわけですよね。川路さんは、スマートシティが訪れた次の未来はどのようになるとお考えですか?

川路:私はいつも谷と山で物事を考えるようにしています。不便やペインを解消して谷を埋めていく話と、今までなかった物を生み出して山を作り出す話は表裏一体ですが、谷ばかりだと効率しか考えないのでおもしろくないじゃないですか。でも、山を考えることは谷を考えるより数段難しい。それに、それがお金になるかも分からない。アイデアを自由に発言しても、立ち止まって本当にそれがビジネスになるのかを考えると、結局動けなくなってしまう。それでも山の話を考えていかないと発展はしない。

東京の交通が今までモビリティに気をかけなかった理由は、世界でNo.1の交通効率都市だから。これだけ地下鉄が発達して、どこにでも安く、不便なく移動ができますからね。最近ではシェアできるモビリティも増えましたし。ただ、これだけ揃っていても、まだまだ山谷でいうところの山が作られていないと思っています。。ホーム・アンド・アウェイという言葉をサッカーで聞きますでしょう。私としては、この考え方が大事なんじゃないかと思うんですね。自分の家の近くはよく行くけど、アウェイだと急に行かなくなる。このハードル何だろう。もしかしたら、ここにモビリティが阻害している原因があるかもしれません。

たとえば、応援している地元サッカーチームが試合は少しはなれた地方都市で行われるとします。いつもは近くのホームで応援しているけど、アウェイ行きのモビリティができれば、サポーターみんなで前の試合を振り返りながら楽しく向かおうと、人の移動が変わるかもしれない。そういうことも“山的な”考えとしてはアリじゃないでしょうか。

この場合、実現するとなると球団やバス会社とも話さなければならないですし、アルゴリズムも必要になるかもしれませんが新たな移動によって新たな価値が生まれるかもしれません。ただ、まだ先の話ではありますが。

坂本:なるほど。清水さんはどうでしょうか。

清水:東京もかなりスマートシティになってきたと思いますが、サービスの観点でいうと、もう少し利用者のペルソナや置かれているシナリオが意識されてもいいんじゃないかと思います。

働く人の観点で言うと、生活や仕事の中でいつでもコワーキングスペースが使えるとか。ランチをどこかでピックアップするとか。移動にモビリティサービスを利用するとか。それぞれが連携して初めてスマートシティに住んでいると実感できると思います。
ですが、モビリティと各サービスを結び付けていくシナリオづくりは、山につながる人が実行しないとなかなか現実にならないと思います。

坂本:山(今までになかったもの)を見つけるということでしょうか、もしかしたら今もすでにどこかにあるのかもしれませんね。

清水:エンターテイメントもスポーツも何でもそうですけど、垣根を超えてモビリティを語るとか、隣の人と話し合うとか、みんなで協力していくべきでしょう。

坂本:サービスの連携やデジタル化が前提となっていくと思いますが、何かできそうなことはないかと考えるところから次の未来を作る取り組みにつながっていくと思います。以上、3つのテーマについてお話しいただきました。ありがとうございました。

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