マルチモーダルの進化の行方

Speakers

加藤 由将
加藤 由将
フューチャー・デザイン・ラボ イノベーション推進担当 課長補佐
東急電鉄株式会社
北川 烈
北川 烈
代表取締役社長
株式会社スマートドライブ
川鍋 一朗
川鍋 一朗
代 表 取 締 役 社 長 C E O
J a p a n T a x i 株 式 会 社

Summary

共に100年以上の歴史を持つ鉄道事業とタクシー事業。100年という歴史の中で、そしてこれからの未来において、どのように変化を遂げ、どのように変革しようとしているのでしょうか。未来の移動にも欠かせない二つのモビリティ。タクシーと鉄道は今後人々の移動どのように変えていくのか、移動手段をどう組み合わせていくべきでしょうか。

川鍋様と加藤様の自己紹介

川鍋:私はJapanTaxiの代表取締役社長、売上高日本一のタクシー会社・日本交通の三代目オーナー、そして、全国ハイヤー・タクシー連合会・東京ハイヤー・タクシー協会の会長という、3つの立場を持っています。

祖父が創業した頃はまだ日本車が走っておらず、実証実験を重ねてクオリティを上げた状態で、満を辞して日本車が誕生したのです。刻一刻とモビリティが変化する中で、タクシーにおける社会での役割は非常に大きいと思っています。私自身、物心がついたころから、祖父に「お前は三代目だ」言われてきましたので、タクシーに情熱を注ぎ続けてきたと言っても過言ではありません。

加藤:東急株式会社の加藤です。今年の9月2日に東急電鉄は鉄道部門を東急電鉄として分社化し、親会社を東急株式会社に商号変更を実施しました。
私は、満員電車ランチ難民など、需要と供給が極端にズレるところを、AIやIoTのテクノロジーを活用して社会を最適化することを目指しています。

東急グループは鉄道やバス、小売りや不動産などを中心として幅広い事業を展開しています。タクシー会社は都心部にはなく、長野県の上田交通、静岡県の伊豆急東海タクシーなど地方で展開しています。

私自身は、東急アクセラレートプログラムというベンチャー企業と東急グループをつなぐプログラムを運営しています。東急グループは建設や不動産、交通物流、エネルギーなどのインフラ事業を持っているだけでなく、小売りや教育、エンターテイメントなど様々な生活サービスを展開しており、それらのリソースを活用してベンチャー企業と一緒にお客様に新たな価値を提供しようと取り組んでいます。

交通事業社が長い歴史を経て、“いま”取り組んでいること

北川:日本交通さんも東急さんも創業から100年以上が経っていますので、マルチーモーダルやMaaSが起きる前から事業を展開されていることになりますが、そのあたりの歴史も振り返りつつ、今のお取り組みをご紹介いただけますか。

川鍋:タクシー事業自体は大正元年からスタートしていますので、今年で108年です。タクシーは一言でいうと「元祖シェアリングエコノミー」。当時の車は外国製で、装置が最先端かつハイテクでしたが非常に価格が高く、一般市民が買うことはできませんでした。これにメーターを付けて時間貸しにしたことでタクシーが誕生しましたので、私は初めのMaaSシェアリングエコノミーだと思っているのです。

日本交通は創業91年。タクシー業界は規制産業ですが、一度だけ非常に戦略的な動きがありました。昭和19年に空襲で多くの車が燃えてしまいましたが、当時東京には有象無象を含めタクシーが約4,000台残っていました。その中に祖父の川鍋自動車商会も含みますが、1,000台集めることを条件に警察から4社統合命令が発令されたのです。川鍋自動車は700台まで集めましたが、どうしてもあと300台足りない。そんな時に東急の創始者である五島さんが車を300台持っていると知り、祖父が言います。「私に譲ってください。私はタクシー事業にかけたいんだ」と。代わりに株をお渡しすることで交渉は成立、無事、創業に至りました。

ここで大手と言われる大和自動車交通、日本交通、帝都自動車交通、国際自動車はこの時、同時に誕生します。それぞれ「大日本帝国」から1文字ずつとって名付けられました。2000年ぐらいまで、東急さんに弊社の株の一部を所有いただいておりましたので、広義の意味で東急グループだと思っています。

北川:そんなご縁があったのですね。

川鍋:東急さんには足を向けて寝ることができません。そんな時代もありましたが、タクシー業界の108年は最初の100年と直近の8年が同じかそれ以上の変化を見せています。理由は産業構造がガラリと変わったためです。

昭和30年ごろは、車内に当時としては最先端なマイクで情報交換をしていましたが、車の位置もお客さんの位置も明確にはわかりませんでした。そんな時代が100年続き、15年ほど前からGPSが搭載され、車の位置がリアルタイムで分かるようになった。最初に見たときはこの技術に大変驚きましたね。そして次はアプリ経由でお客様の位置が分かるようになりました。お客様の移動情報も車の移動情報もすべて履歴が残るので、無駄なく効率的な配車ができるようになったのです。

人と車をつないでA地点からB地点へと移動する。一部で既存のオペレーションドリブンの部分が残っていますが、マッチングと支払い、最近ではこの2つのビジネスモデル上のコンポーネントがテクノロジーに変わりました。つまり、ビジネスモデルの付加価値の半分がIT産業になったのです。

9年ほど前にアプリを立ち上げたときは単にタクシーを呼ぶ一つのチャネルの位置づけでしたが、運用していく中で、これはもう一つのチャネルではないと気づきます。そのため、アプリを切り出して、JapanTaxiという一つの会社を立ち上げました。

JapanTaxiはテクノロジーの企業だから少しラフ、日本交通は歴史あるタクシー業界なので少しお堅め。どちらか一方ではなく、両方の視点が重要なのです。デジタルトランスフォーメーションは、言葉自体が流行っていますが、本当に実現するには、感覚が違う者同士の圧壁をどのように溶かし、すり合わせるかを考えなくてはなりませんから。

こうして誕生した日本一のタクシーアプリ、全国で使える「JapanTaxi」アプリを、みなさんにもぜひ使っていただきたいと思っています。東京ではタクシー配車の8割がアプリ、2割が電話になりました。とはいえ、タクシー利用者の半分ぐらいは流しや専用の乗り場を利用しているので、流しでタクシーを捕まえた方のユーザビリティを向上させる方法もあわせて考えています。お客様の目の前にタブレットを設置して、アプリでカード支払いに切り替えるなどです。おかげさまで、最近では日本交通の6割がキャッシュレス支払いになっています。

北川:私もタクシーを呼ぶときは「JapanTaxi」アプリを利用していますが、事前決済ができるので非常に便利ですよね。社員と乗ったときに私が先に降りてしまうと、社員に支払わせることになってしまうので、先にピピッと済ませるようにしています。

加藤:まさにそれ。接待の時にサッと支払えればスマートに見えますし、チケットも用意しなくていいですね。

北川:川鍋さん、ありがとうございました。加藤さんはいかがでしょうか。

加藤:東急グループはもともと田園都市株式会社として不動産会社から始まり、街づくりを行ってきました。ですので、東急グループとしては鉄道、バス、その他マイクロモビリティはあくまで街づくりのツールの一つという認識です。ユーザーが目的地にたどり着いて何がしたいのか、快適に安全に早く移動するにはどのような手段が必要かなど、ユーザーの目的を重視したサービスを展開したいと考えています。

近い未来、タクシーと鉄道はどのように変わっていくのか

北川:冒頭でこれまでの100年よりも今の8年の方が早いと川鍋様がおっしゃりましたが、次の5年、10年でタクシーや鉄道はどのように変わっていくのでしょうか。電車とタクシーを組み合わせたマルチモーダルという考え方もありますが、何が必要とされているのか、今後の取り組みと合わせてお話いただければと思います。

川鍋:電車とタクシー。5年、10年後はタクシーと呼んでいるかさえ分かりませんが、トラックとバスはすべてワゴン型の車になって、人と物のどちらも運ぶようになるんじゃないかと思っています。

東京は人口が多いので、バス・トラック・タクシーが個々の事業として成り立ちますが、地方ではドライバーの人手不足が目立ちます。タクシー会社もトラックも宅配便も郵便もすべての業種でドライバーが足りない。全部一緒にしようと考えるのは簡単ですが、各々の行法、業界があり、垣根を取り下げるのは簡単なことではありません。ここで、タクシー業界の会長として言いますが、地方はみんなで協力しあって進んでいかなければ、この先経済的にも無理が生じることになるでしょう。
なんの不自由もなく人々が生活するには、その地域で成り立つ最小のエコノミクス単位で移動手段を作り上げ、出資し合い、運行していくしか方法はありません。それで赤字になったら、地方自治体の税金を投入することになります。交通単体だけでは、パブリックトランスフォーメーションになればなるほど儲からない。路線バスは全国ベースで見れば8割が赤字ですしね。ですから、公共交通が利益率を高めるには、全部乗せしていくしかないのです。

たとえば、自動運転のワゴン車に何人かが相乗りで乗っていて、宅配便も郵便物も積んであって、後ろを開ければコンビニがあるとか。自動運転だけど、乗務員が一人乗っていて、スタックした時に動かしたり、荷物のお手伝いをしたり。ラストワンマイルは人肌と触れ合う所でテクノロジーと人を翻訳してあげるって、どうでしょうか。

ただ、相乗りで全員の家の玄関先まで行くのは非効率ですから、元気な方は途中でキックボードを利用するとか。ドライブレコーダーのカメラ画像を防犯に役立てるとか、災害時は充電できるとか、てんこ盛りにすれば、最後まで動き続けているモビリティーになるんじゃないかと思います。

北川:東急さんはMaaSにも率先して取り組まれていますが、先の未来に向けて具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

加藤:東急は伊豆半島で観光型MaaSに取り組んでいます。伊豆ではフェーズ1の実証実験が終わり、12月1日からフェーズ2の実証実験が伊豆半島全域で展開予定です。

東急グループは、仙台、静岡、北海道で合計9ヵ所の空港を運営していて、空港からの二次交通を充実させるためにも地方型MaaSの展開を強化していきたいと考えています。多言語対応もしていますので、インバウンドの方がここから情報をとって、目的地へスムーズに向かえるようにしています。そうすることで、地域の活性化、地方創生にも役立てたいですね。

川鍋:問題は空港や新幹線で降りたった場所からの交通。もっとタクシーが頑張って行くべきかもしれませんが、小さいタクシー会社ばかりだとなかなかITが浸透しません。

加藤:先日、出張で札幌に行きましたが、札幌駅前やすすきのはタクシーが多いのに、少し離れると交通手段がほとんどないんですよね。もしかしたらと思って「JapanTaxi」アプリを開いたら使えたので、非常に安堵しました。

北川:私は終電がなくなってしまった時に「JapanTaxi」アプリを使ったことがあります。感動したのが、高齢で一見ITに弱そうな方がいとも簡単に操作されていたこと。こうやってテクノロジーが浸透していくんだと実感しました。

川鍋:ボタンを大きめにするとか、どこを押しても反応するとか、誰でも使えるようにすることが大事。決済機最大の悩みは「●●ペイ」が何十種類もあること。覚えるのも大変ですから、そこはセルフレジでお客さんが選択する設定にしました。乗務員さんはOKを押すだけで決済が完了します。

誰がどのように使えたら楽になるのか。乗務員に「これなら使える」と思われるように、設定をシンプルかつ分かりやすくすることがポイントです。そうでなければ浸透していきませんから。

北川:見えない障害は、見逃されがちですよね。
大型トラックが全てを運ぶようになるのは数十年先になるかと思いますが、「乗合」というコンセプトはすぐにでも普及するのではないかと思っています。東急さんのように、不動産や都市開発を担当されている企業様にもポテンシャルがあると思いますが、普及させるためにはどのような課題が考えられるか、意見をお聞かせ願えますか。

加藤:乗合は重要な位置づけだと思っています。たとえば、田園都市線の二子玉川から渋谷の間の各駅にお住まいの方は、電車が止まってしまうと陸の孤島になってしまう。そういった場合、バスが臨時増便を行っていますが、鉄道と比べて輸送量が低いので運びきることができませんから、一台のタクシーに2、3名乗り合い利用させていただくことができれば、有事の際のバックアッププランとしても稼働できるのではないかと考えています。

川鍋:そうですね。現時点では法律上不可ですが、来年の春ぐらいからタクシーで相乗りできるようになります。

ただ、今のところは、事前にルートを決めて相乗りする人同士に合意いただけないと成立しません。本当はもっと柔軟に、1人が乗っていても、途中から別の人が乗れるようにしたいのですが、そのあたりの規制についても、法律的には条文に落とさなければならなくて。

国土交通省が専門家と整合性を確かめながら進めているので、結構時間がかかってしまう。しかしここで焦らず、一歩一歩ねじり寄っていくということが大事です。来年春からは、少なくとも1人1台ではなくて2人になると思いますから。

タクシー業界と鉄道業界が考える「移動の進化」「移動の未来」

北川:それでは最後、本カンファレンスのテーマは「移動の進化への挑戦」ですので、お二人が考える移動の進化とはどういうものかを教えていただけますか。

川鍋:夢はいくらでも語れますが、私は超現実派なので空を飛ぶのは危ないと思っていまして。昔、日本農林ヘリコプターが日本交通のグループにありましたが、父が売却してしまったのです。その理由を聞いたら、「ヘリコプターは落ちるんだよ」と。農薬散布は低いところを飛ぶ。農薬が節約できるけど、電線に引っかかって落ちる可能性がある。それで、空の事業は難しいなと思いましたね。

先ほども申しましたが、物理的に走ることで得る運賃の収益だけで大きな利益を出すのは困難ですので、「タクシーデータで移動の未来を創る」JapanTaxi Data Platformを展開していきたいと思っています。

こちらは、タクシーの動体の様子ですが、時間帯によってピークの状況がわかるようになっています。赤い点一つひとつが画像を撮って蓄積していますので、後々、画像分析することができるのです。つまり、どこにどうやって何人集まっているかがわかる。

新型のドライブレコーダーでは、営業所でWi-Fiからデータのダウンロードが可能になりました。ただ、一つひとつは容量大きいので、画像認識で抽出しています。その抽出した情報にバリューを出して、どのように活用していくべきか。放射能や花粉量を東京都や気象情報会社が買ってくれるといいのですが。次のステップとしてはリアルタイムでこうした情報がわかるようにしたいですね。この交差点には花粉が多いので避けて通勤した方がいいですよと伝えることもできますし、ワイパーの動きでゲリラ豪雨もわかりますので、アラートを出すことができる。

このようにデータをフル活用すれば、公共交通網の信号整備だってできるかもしれません。今はそのためのコストがバリューより大きくなっていますが、必ず逆転する瞬間が来ますので、そこに向けて、安全な運行管理を行いながら、交通を磨き上げていきたいと思っています。

加藤:ここにボラティリティを表現した絵があるのですが、この世界観が理想です。その理想に向けて、私たちが注目しているのがダイナミック・プライシング。

値段を変えることで需給調整ができるがメリット。もちろん、一番混んでいる交通機関は高くなりますし、空いている交通機関は安くなります。さらに、移動したその先の連携が重要です。混雑していない交通機関で映画館へ来てもらえれば、通常1800円のところを特別価格で割引するとか、飲食物販を割引するとか。ダイナミック・プライシングを活用してピーク分散すれば、より快適でお得な都市生活を提供できるのです。価格が1秒ごとに、見るたびにどんどん変わる。提案されたいくつかの選択肢の中で、自分がやりたいことと移動のツールの組み合わせを選択していく。近く、そんな未来がやってくるのではないでしょうか。