所有から利用へ、変わるクルマとの付き合い方

Speakers

北川 烈
北川 烈
代表取締役社長
株式会社スマートドライブ
桑野 順一郎
桑野 順一郎
代表取締役社長
Zuora Japan株式会社
金谷 元気
金谷 元気
代表取締役社長
akippa株式会社
高橋 飛翔
高橋 飛翔
代表取締役社長
ナイル株式会社

Summary

かつては車を所有することがステータスだとされてきましたが、近年では若者の車離れ、カーシェアやライドシェアといった新たなモビリティサービスの出現により、車と人の付き合い方に変化が起きています。自動車関連ビジネスは、今後どのように変わっていくのでしょうか?

スピーカー3名の自己紹介

北川:まずはみなさまの自己紹介からお願いいたします。

桑野:Zuora Japanで代表を務める桑野と申します。米Zuoraを日本で立ち上げ、今月でちょうど丸5年が経ちました。

私たちは従来のプロダクト販売モデルからサブスクリプションモデルへのビジネスモデル変換と、そこにおける収益向上の支援を、私どものプラットフォームを通じて提供支援する会社です。

ここ最近で、サブスクリプションサービスが次々と出てきましたが、サブスクリプション・ビジネスへの理解を深めてもらおうと、昨年10月に「サブスクリプション--「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル」を出版いたしました。ビジネスとして展開するにあたり、企業は何をすべきか、組織をどのように変えていくべきか、KPIをどのように設定するのか、幅広い視点で書かせていただいております。

金谷:akippaの金谷です。
akippaは2009年に設立し、営業会社としてスタートしました。2014年から駐車場シェアリングサービス「akippa」を展開し、現在ではSOMPOホールディングス、住友商事、日本郵政キャピタル、JR東日本スタートアップ、ニッポンレンタカーなど、あらゆるモビリティ系企業様に出資いただいております。

「akippa」は3000万台以上の空き駐車場と駐車場を探しているユーザーをマッチングさせるサイト・アプリで、「駐車場は現地に行って初めて満車だとわかるので困る」という困りごとから生まれたサービスです。

2013年6月に実施した市場調査では、車の台数8000万台に対して、コインパーキングが470万台しかないということがわかりました。ここから、一時貸し駐車場の不足を意識し始めると同時に、路上駐車台数が1秒あたり東京で6万3000台、大阪で3万8000台もあることに問題を感じます。さらに調べていくと、月極駐車場やマンション、空き地の駐車場が3000万台以上も浮いていた。それなら、利用したいユーザーと空き地をマッチングすれば解決できるだろうと思い、akippaの構想が組まれました。

サービス開始から5年半で会員数は150万人、駐車場も47都道府県で3万拠点にまで増えました。

高橋:ナイル代表の高橋と申します。私は大学在学中に、幼い頃から抱いていた「世の中に残るものを作りたい」という思いを実現すべく、今から13年ほど前の2007年に会社を設立しました。

デジタルマーケティングで社会を良くする事業化集団という言葉をヴィジョンに掲げ、デジタルマーケティングの支援事業、スマートフォンのメディア事業、そして昨年の1月からモビリティ領域に参入しています。

ご存知のように、100年に一度の大きな構造転換が起きている中で、人と車との関係性が、所有から新たなサービスへと大きく変わろうとしています。この新たな波に飛び込みたいと思いつつも、日本が誇る自動車という最大産業がこのままでは世界で冠たる重要な産業ではなくなってしまうのではないかという危機感も同時に抱いております。そのため、100年後の世界で日本が車の先進国と言われるためにも、この事業に注力したいと思っています。

当社が提供しているのは、ネット完結の個人向け新車カーリースサービス、「マイカー賃貸カルモ」というサービスです。いわゆる車のサブスクリプションサービスでしょう、とよく言われますが、従来のカーリースという金融商品を“リメイクした”サービスと捉えています。特徴は、日本で初めて個人向けに11年間のカーリースであること。一般的なマイカーローンは短いと3年、長くて5年、7年が多いのですが、11年間に渡って個人の方に車をリースしていただくことで、非常にお得な月額料金を実現しました。月額には、修理やメンテナンスが全て含まれています。

1年半強、カルモを展開してきた中で、車を所有したくても審査に受からないという方が多いことに気付きました。ローンまたはリース契約を申し込む方が年間260万人いても、200万人が審査に通らず、車の所有を諦めたり、中古車を購入したりしてしまう。これを非常に大きな問題として捉えていますので、私たちが改善していきたいと考えております。

今後の展開としては、審査に落ちてしまう方々がより経済的で負担がない車に乗れる社会の実現を目指し、新車のみならず、中古車版カルモ(*)を展開する予定です。加えて今ローンやリースに通らない方々にも車が提供できる仕組みを構想中です。
*中古車版カルモは2019年12月9日に開始している(https://car-mo.jp/usedcar/

車の「利用」というビジネスモデルは一過性のものか

北川:まずは、今回のテーマになっている「所有から利用へ」。この流れは一過性のものなのか、

それともこの先ずっと続いていくのか。それぞれの事業の観点から、みなさまのご意見を伺いたいと思います。

桑野:サブスクリプション エコノミーがさまざまな分野に広がり、最近ではさらに加速している状況ですので、戻ることはないでしょう。その理由は次の2つ。

1つは、顧客のニーズが所有から利用へと変わり、モノからコトへのニーズが拡大していること。2つ目は企業視点で見ると、戦前から続いてきたプロダクト販売モデルが毎月毎年毎四半期、成長し続けることが非常に難しい時代を迎えたこと。モノが売れない時代が到来し、メーカーは異なる手段で収益化を考えていかなければならなくなった。自動車業界だけではなく、NetflixとかApple Musicなど、身近なものに目を向ければ世の中はサブスクリプションサービスで溢れています。この二つから考えても、利用から所有へ戻ることはないでしょう。

高橋:私はモビリティ視点からお話させていただきます。日本では若者の車離れが進んでいると言われていますが、これは本当でしょうか? 日本において、所有から利用への流れが起きている最大の要因は都市への人口流入と車の買い替えサイクルの長期化、この2点が非常に大きいと考えています。都心部で駐車場を借りると、月極で5万円、安くても2〜3万かかりますので、都内や地価の高い地域に住む方々は車を持つことに対してネガティブなイメージを持っています。東京都では人口100人のうち車を所有しているのは16人程度。これが都心部を離れると50人を超えていきます。ですので、都心部に人が集中して住んでいる限り、車は必需品ではなくなるということです。一方、地方では何年も車の所有率は変わっていません。

ですので、都市に人が集中しすぎていること、自動車産業の競争によって性能が上がり、短期で買い換える必要がなくなったことで販売数が低下したと考えられるでしょう。そんな中、都市部では車と人との新しい関係性が問われつつあり、そこにさまざまなモビリティサービスのニーズが生まれている。カーシェアがその代表例ですが、今後パターンが増え、利用レイヤーもモビリティが増えていくのではないでしょうか。

金谷:私たちは駐車場シェアリングサービスを展開していますので、シェアリングの観点でお話させていただきます。事業の関係で、各モビリティの会社からBtoC向けのカーシェアを展開したいという相談をよく受けますが、最終的に周辺エリアで試算すると投資回収ができないという理由で断念される方が少なくありません。

こうした状況から「所有から利用へ」を考えると、カーシェアはまだ難しい部分もあると思いますので、所有とカーシェアの間ぐらい、特定の人たちがリスクを分散して、一緒に利用するというシェアの方が可能性はあると考えています。

モビリティ領域のスタートアップがぶつかる壁

北川:スタートアップとして、モビリティ領域に取り組む中で苦労されたことはございますか?

高橋:デジタルコンテンツと違い、私たちの事業はアセットが必要です。車を購入してそれをサブスクリプションやシェアリングサービスへ変えるのはスタートアップだとリソース、資金面を考慮しても現実的に難しい。そうなると必然的に大手企業とアライアンスを組みながら、消費者のニーズがあるものを作り出す必要性が出てきますが、その際に大きな課題となるのが動きの速度が合わないこと。これは極論ですが、大手企業からすると1年ぐらい今のままでも大丈夫だろうと思われていることが、私たちとしては1年間動けないと倒産に至ってしまう。大手とスタートアップでは危機意識が大きく異なりますが、そこは一番難しさを感じる点ですね。

北川:ありがとうございます。Zuora社はスタートアップではないかもしれませんが、サブスクリプションサービスに取り組まれる上でモビリティならではの難しさなどあれば教えていただけますか?

桑野:モノのサブスクリプションはデジタルとは大きく異なりますし、高橋さんがおっしゃる通りモビリティ領域ではアセットが必要です。
ただ、デジタルであっても、モノであっても、サブスクリプションは価値を収益化するモデルに変わりありません。お客さんはその価値に対してお金を支払いますので、その価値をどのように設定するかが重要です。とはいえ、時間の経過とともに消費者のニーズは変わり続けますので、時代に合わせてそのニーズを的確に捉える必要がある。ですから、サービスは固定的なものではなく、永遠にベータ版として進化をさせ続けながら、価値を提供し続ける努力が必要です。

サブスクリプションは1日でも長く使い続けてもらうことで収益化できるモデルですので、いかに価値を継続的に提供できるかが一番重要なポイントです。

金谷:高橋さんとは逆かもしれませんが、大手企業のやりたいことに対して、ベンチャー側のリソースが足りず、スピードが落ちることもままあります。私たちもそういう経験をしました。

akippaを開始した頃、初期に投資いただいたのがDeNA社。同社からエンジニア、事業企画、大手向け営業の3名が出向され、立ち上げに携わっていただきいただきました。その後今年の10月にはSOMPOホールディングスと提携し、代理店網を拡大していくことになりました。しかし、保険代理店とは協業したことがないので、どう進めるべきかわからない。リソース不足がスピード感にも反映されるとわかり、出資いただくときに先に条件に折込むなどして乗り越えています。そのためSOMPOホールディングスから3名出向いただき、ご協力いただきました。北川さんはどうですか?

北川:スマートドライブも少し近いところがあるかもしれません。多くの株主様、事業会社の方がいらっしゃるのに、私たちのリソース不足でできないことが結構多くて。大企業の方々が動かれると、非常に大きなパワーになりますが、どのように折り合いをつけていくかは日々悩んでいるところでもあります。

逆に、モビリティ領域のスタートアップならではのやりがいについても聞いてみたいと思います。高橋さんは異なる事業を継続しつつモビリティ領域へ参入されましたが、どの辺りに可能性を感じられたのでしょうか。

高橋:自動車×テクノロジーというリアルテックに可能性を感じました。この領域の魅力は、人の生活とダイレクトに関われるところ。ウェブで完結する世界でビジネスをしていると、事業の手触り感みたいなものが損なわれてしまう部分がありますが、私たちのモビリティサービスを通じて契約者様の喜ぶ声を聞きますと、やりがいを直接肌で感じることができます。

また、先ほど大手企業の方々とアライアンスする中での苦労をお話ししましたが、いざやるとなったときの強大なパワーは格別です。1社ではなし得ないような大きなことできるのが、この領域の面白みとやりがいですね。

北川:Zuoraさんは、モビリティ以外のサブスクリプションも展開されていますが、今の話の流れで、モビリティならではのサブスクリプションの考え方やモビリティ領域でサブスクリプションサービスを展開する意義についてお聞かせ願えますか。

桑野:最近は国内でも自動車メーカーやMaasのプラットフォームを展開しようとしている企業さまからのお問い合わせが増えています。先ほども述べましたが、一番重要なのはどうやって価値を収益化するかという点です。

車だけに限らず、どの企業も持っているプロダクトをそのまま年月で割って提供しようとされます。しかし、車本体以上の価値が出せなければ、長期的に利用してもらうことは困難です。

高橋:デジタルコンテンツは複製コストがほとんどかかりませんが、車の場合は価値あるものを分割するだけでは、驚異的な価格破壊はできませんよね。

桑野:おっしゃる通りです。ですので、そこに付加価値を付けていかなくてはなりません。カルモですとメンテナンスサービスという付加価値が付いていますよね。

そうやって付加価値を付けて他のサービスと差別化し、それをユーザーに価値として感じてもらいながら長く利用してもらうことです。最近のニュースで、カーシェアリングのサービスなのに、一部、走行距離が全く伸びない人がいるという記事を目にしました。調べたところ、車を運転せず、終電に乗り遅れたからホテル代わりに利用するとか、昼間の営業時間中に仮眠をとるとか、カラオケの練習をするとか、NETFLIXの動画を見るとか、多様な使われ方をしていたのです。

車だから当然運転をするだろうという考えは、プロダクトアウト的な考え方。価値を提供してもそれが通用しなければ意味がありません。価値を提供するためにお客さんと直接つながって顧客のニーズを常に追っていくこと。これはデジタルもモノも同じ、重要な視点です。

北川:非常に興味深い話です。カルモではオンラインで申込を完結したり、リース契約ができない人にも契約範囲を広げていこうとしたりしているようですが、どのようなアウトバリューができるかを常に意識されてらっしゃるのでしょうか。

高橋:そうですね、顧客を知ることに重点を置いていますので、経営者として一人ひとりのお客さんに会いにいく活動も始めていますし、私たちのお客様層は、具体的にどんな人で、どこに住んでいて、何のために車を使うのかを徹底的に掘り下げて考え、サービスに反映させています。ユーザーの困りごとを理解するのは、サービスを提供するうえで非常に大事なことです。そこから、車以外の価値を提供すべきではないかという発想が浮かびますし、新たな発見が得られますから。

北川:少し最初の質問に戻りますが、金谷さんがスタートアップとしてこの領域にチャレンジした理由を教えていただけますか?

金谷:スタートアップは創業者がいますし株価がそんなに高くありませんが、大企業は現状が良くても将来に不安がある。そこで将来性にかけて、出資いただけるという口実があるのはありがたいことかなと思っています。普通にやっていたらトヨタさんやSOMPOホールディングスさん、住友商事さんと一緒にできることはありませんから。彼らのリソースを活用させていただけるというのは非常に大きいことです。

自動車保険が解約された=駐車場が空くことになりますが、状況が把握でき次第、早急に駐車場シェアの提案を代理店からいただけるのもありがたいこと。ベンチャーだからこそ出資いただけますし、私たちが大手企業のリソースを活用できるというのは本当に素晴らしいことだなと思います。

みんなが考える移動の未来

北川:それでは最後に、将来の展望やこんな移動の未来を実現したい、この業界はこのように変わっていくなど、本カンファレンスのテーマである「移動の未来」について、みなさんにコメントをいただきたいと思います。

桑野:サブスクリプションを正しく理解しない限り、所有から利用に切り替わる中で、うまくビジネスを立ち上げることはできないと思っています。これは、横軸が時間軸で縦軸が金額で、サブスクリプションの成功を一枚の絵にしたものですが、成功するには横軸を伸ばし続けながら、縦軸を上げていかなくてはなりません。横軸が切れる=解約になりますので、縦軸より横軸の方が重要です。

こちらは弊社の顧客がその顧客に提供しているサブスクリプション契約の典型的な推移を表した絵です。

ベーシックプランという比較的加入しやすいプランで、まずは顧客を取り込む。契約をしてもらったら、次に上位版を提案して価値と単価を上げる。そこからさらに、異なる機能やサービス、オプションをつけてもらうように促す。最近では長期休暇中に休止ができるプライスプランも出てきましたが、それだけでも他社との差別化ができるようになりますよね。休止があれば再開がある。

さらに最近ではダウングレードを提案する機会が増えましたが、これは契約解除をされる前にワンランク下のプランを提示することです。たとえばストレージサービス。1カ月10ギガのストレージのサービスを契約しているけどここ何カ月かは5ギガ未満しか使っていないとします。そうなると、最悪の場合、解約される可能性が出てきますので、その兆候を早く見つけ、即座にお客さんにあったプランを提案し直すのです。単価は下がりますが解約を阻止することで横軸が伸び続け、収益化のチャンスが広がっていく。そしてチャンスがあれば別の価値を提供し、単価を上げる。縦軸は金額と言いましたが、言い換えるとお客さんに提供できる価値のレベルのことです。金額と価値のレベルをうまくアジャストしながら横軸を引っ張り続けることが、サブスクリプション収益化のベストプラクティスになっています。

顧客のニーズから最適なサブスクリプションジャーニーをデザインし、タイムリーに提供すること。これがサブスクリプションで成功するための非常に大きなポイントです。

金谷:私たちはSOMPOホールディングスとの提携で、来年にはakippaを開拓する代理店が1200店舗になります。20万箇所準備できれば路上駐車をなくしていけるんじゃないかと考えていますので、2022年までに達成しようと動いているのです。ただ、2040年になったとき、駐車場の市場は上がっているか。それは違うと思っていますので、この20万箇所の駐車場を充電スポットに変えていこうと考えています。2040年にはEVの比率が50%程度に拡大しますので、個人宅の登録を増やして、彼らに電気を売って、個人宅からEVにシェアしてもらおうと。

今後、自動運転が一般化すれば待合場所が必要になりますが、そうした場合にも駐車場が使えますので、とにかく今はさまざまな場所を押さえていこうと動いています。あとはドライバーのデータも1000万人分を目標に集めていきたいですね。

北川:たとえば2040年、2050年に視野に入れている駐車場や場所のビジョンはございますか?

金谷:今のところは考えていませんが、どこの会社にも欠かせないサービスの一つになりたいですね。各社がMaaSのプラットフォームを狙っているかと思いますが、そこで勝負するのは簡単なことではありませんし。

北川:駐車スペースと充電だけでもかなりの市場規模だと思います。高橋さんはいかがでしょうか。

高橋:まず、弊社の大方針にしているのが、プロダクトアウトで考えずにマーケットインで考えることです

自動車産業における議論を見ていると、CASEやMassという言葉だけが切り出され、とりあえず海外で取り組んでいることをローカライズして日本でも展開しようという、プロダクトアウト的発想で取り組んでいる事業会社が非常に多い。ですが、消費者一人ひとりや法人顧客が魅力を感じ、実際に使ってもらえなければ、事業がうまくいくとは思えませんので、どういうニーズが切り出せるのかを徹底し突き詰めていく会社でありたいと思っています。その考えのもと、車のサブスクリプションに価値をどう切り分けるかについて先ほどお話ししました。

所有という1ユーザーに対して、車という価値を1として切り出していると言い換えることができると思っていて。カーシェアリングでいうと、ある地域において100台ある車が、100という価値を1000で切り出している商品と言えると思うんですね。このような組み合わせが無限に存在すると思っていますが、海外にはまだ存在していません。マイカー社会の日本だからこそ切り出しうる価値が残っていると考えているので、新しい切り出し方を随時、追求していきたいですね。