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都会と田舎、環境に優しいのはどっち?

都会と田舎、環境に優しいのはどっち?

日本のみならず、世界的な課題として直面している環境問題、とくに温暖化を進めるCO²削減については、先進各国を中心に具体的な目標を掲げ、日本においても2020年10月26日、菅総理がCO²に代表される温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を宣言しました。

この宣言を受け、製造・輸送業界は素材や製造工程の見直しや再生可能エネルギーへの転換などの施策を進めていますが、温室効果ガスゼロを達成するには企業単位だけではなく、消費者1人1人が環境に優しい生活とは何かを意識しなくてはなりません。そんな中、コロナも後押しして人や自動車が溢れる都会の喧騒を離れ、自然あふれる田舎での暮らしを始める方も年々増えており、その方が結果として環境に優しいと考えられています。しかし、日本においては田舎の方が都会より環境に優しいとは必ずしも言えないようです。

森林保護の重要性と大きな勘違い

都会での生活と田舎暮らしを環境へ与える影響について、大多数の方は田舎に住んでいる方が、都会での生活より環境に優しいと考えるかもしれません。

たしかに、地球温暖化の一因である自然破壊という根本的問題から見れば、自然がまだ残っている田舎に住んでいる方が、アスファルトとコンクリートに囲まれた都会に住んでいるより、環境への悪影響は少ないでしょう。しかし、私たち陸上動物が生きていくためには、酸素を吸って二酸化炭素を吐く呼吸が不可欠である以上、どこで生活していても相当量の二酸化炭素を大気中へ排出します。

もちろんそこは自然の摂理とバランスによって、陸上動物が呼吸で排出した二酸化炭素を吸って光合成をおこない、酸素を大気中へ供給する植物たちのおかげで、陸上動物が生存できる環境が絶妙に保たれてきました。

森林が持つCO²吸収力は樹種や林齢により異なりますが、例えば50年生スギの人工林面積1ヘクタール当たりの炭素貯蔵量は170トン、これを50年で割れば1年間平均で1本当たり約3,8kgの炭素(約14kgのCO²に相当)を吸収していることになります。つまり、人間1人が呼吸で排出するCO²は年間約320kgと言われているため、これを吸収するには50年生スギ約23本が必要ということです。それだけの森林を地球上で維持すれば、人間の呼吸によるCO²排出は実質ゼロにできます。

だからこそ、自然をある程度維持できる田舎暮らしのほうが、断然、環境に優しいと考える方も多いですが、私たちが田舎と呼んでいる場所ですら森林を切り開いた土地にすぎません。さらに、森林を切り開くにはブルドーザーなどの重機を使用しますし、田畑を維持し農産・畜産物を生産するためトラクターやコンバインはもちろん、排出するげっぷやおならが温室効果ガスとしてCO²以上に問題視される、牛やヤギなどの家畜も必要です。

要するに、田舎で暮らしても、地球環境という大きな物差しの上では、生活水準を極端に落とさない限り、環境に優しい生活をしているとは決して言いきれないのです。

都会より、田舎に住んでいる方が(一人あたり)CO2排出量は高い(生活水準で調整後)

田舎での生活がそれだけで環境に優しいわけではない理由は大きく2つあります。1つ目は前述したとおり、土地開拓や生産維持の過程で少なからずCO²を排出し、かつ森林を破壊することになることです。鉄筋コンクリート製のビルが立ち並ぶ都市を建設・維持し工業物を生産する方が、何倍もCO²排出増加につながるように感じられますが、日本国内におけるCO²排出量の内訳(2013年度・環境省)を見ると、そうとも言い難いのです。

産業(33%)やエネルギー転換(7%)によって、大量のCO²が排出されているものの工業プロセスによるものはわずか1%にすぎず、運輸や生活インフラなどの業務、さらに家庭生活など「都市活動」に起因する割合は5割を超えています。知っておくべきは、ここでいう都市活動とは大都市限定ではなく、家電製品が家庭内に溢れ自動車を頻繁に使用する日本では地方での生活もしっかり含まれていること。

つまり、井戸や河川のみで用水を賄い電気やガスも通っておらず、人力とわずかな家畜の実で生産力を得ているような生活をしていない限り、地方も都市部も、1人当たりのCO²排出量は大差ないと言えるのです。

むしろ、田舎と都市部で通勤・炊事・洗濯などからレジャー・文化活動に至るまで、細かく生活水準を一定にするなら、それぞれを行う場所が地理的に離れている田舎の方が、施設が集中している都市より時間や手間を要します。そのため、地方都市では、限られた時間を有効に利用すべく、短時間で離れた場所へ移動できる自動車を利用する人がほとんどであり、その保有台数は今や世帯に1台ではなく、1人1台と言える水準に達しています。

結果、日本に限らず先進諸国では首都クラスの大都市より、田舎の方が1人当たりのCO²排出量は大きく、2009年に国際環境開発研究所が発表した研究によれば、ロンドンの居住者は同国内1人当たりの半分しか、CO²を排出していないことが判明しました。

ちなみに、人間1人が呼吸によって排出するCO²の年間排出量を思い出してほしいのですが、それを吸収するのに必要な50年生スギが約23本だったのに対し、自家用車1台が年間に排出する2,3トンものCO²の吸収には、同じ50年生スギが約160本必要です。

田舎の方がCO²を多く排出してしまう原因

単純に考えれば、自然と共に生きる田舎での生活の方が、都市より環境に優しいはず、ではなぜ逆の状態になってしまうのか、ここではCO²排出ゼロを目指すうえで知っていくべき、その原因を追求してみましょう。

原因1 生活水準を維持するインフラの非合理性

まず、都会と地方を比較すると、都心部は電車やバスなど公共交通機関が発達し、生活に必要な病院・商業施設が集中しているため、自家用車に頼らなくても高い生活水準を保つことが容易です。前述したように、自家用車1台当たりのCO²排出量は人間1人の約8倍ですから、政府や保護団体が盛んに植樹・植林を訴えても自家用車が増えれば焼け石に水のようなもの。正直、今後HVやEVが普及しても、ガソリン車が消滅しない限りなかなか歯止めはかからないでしょう。

また、都市部は人口が狭い範囲に集中しており、水道・ガス・電気などのインフラ整備が容易でエネルギー効率に優れているため、CO²排出増加に直結する化石燃料の節約が可能です。

原因2 人口集中による交通渋滞の功罪

都市部への人口集中を起因とする交通渋滞の深刻化は、CO²をはじめとする排気ガス排出量の増加によって大気汚染をもたらす元凶として、国や地域問わず厳しい規制の対象となってきました。それは今も変わりませんが、各国の大都市では慢性化した交通渋滞を嫌い、公共交通機関を積極的に利用したり、カーシェアの活用や自転車・徒歩での通勤に切り替えたりするユーザーも年々増加傾向にあります。

また、厳格化する排気ガス規制をクリアするため、各自動車メーカーがこぞって環境に配慮した車の開発に尽力した結果、再生可能エネルギーを利用したモビリティの誕生も、間近に迫ってきました。交通渋滞の深刻化による大気汚染は、確かに地球環境を破壊してきた人間の罪にほかなりませんが、その事がさらなる進歩のきっかけとなり、新たな技術やビジネスを生み出しているのも確かな事実です。

原因3 環境保護に対する誤った認識

リサイクルやエネルギー転換もそうですが、地球環境を守りつつ資源を有効活用するためには、持っている知識や技術をさらに発展させることが必要です。一部では「自然回帰こそが環境保護を進める唯一の方法だ」というような認識を持っている方もいるかもしれません。しかし、今まで築き上げてきた文明を捨て、有史以前のような生活に戻ることはあり得ないことです。

つまり、人類は現在の生活水準を維持・向上しつつ、いかにして環境に優しい生活を送れるか、本来両方を得ることが難しいことを、文明の力によって成し遂げようと望んでいるのです。

温暖化対策をするなら、都市化・高層住宅化した方がいい?

地方でも都市でも、真の意味で環境に優しい生活をするのは案外難しいことです。そんな中2010年代から注目されてきたのが、商業施設や行政サービスなど生活に必要な機能を一定範囲に集め、効率的な生活や行政を目指すコンパクトシティという都市構想です。

コンパクトシティ構想とは、簡単に言えば極端な人口減少と高齢化によって郊外へ拡散した市街地を再度集中させ、生活インフラを効率化することで需要が高まってきた医療・介護サービス始め、生活インフラの充実化を図るというもの。地方の都市化が進み、人口が一極化すれば、駅の近くなど一定の範囲に人が集まって自動車の使用が減り、鉄道など公共交通の利用の割合が増えるため、移動から発生するCO²排出量を大幅に削減できるでしょう。また、それに伴い住居を日本古来の木造一戸建てから、耐熱・耐寒性能に優れる素材でできた高層マンションなどに転換すれば、冷暖房に要する燃料の節約も見込めますし、過疎化によって崩壊しつつある、地域社会とのつながりも再構築しやすくなります。

一方、一極化が進むことで騒音などのご近所トラブルが発生・悪化する問題もありますが、それらは再構築された自治会などの地域社会による調整も可能です。肝心なのは、人口の増減や環境変化などの状況に合わせた都市設計のシナリオを練り上げ、それにネットやAIを活用した自動運転インフラや見守りシステムなどの先進IoTと、公園などの自然をうまく組み込むこと。

つまり、自然に任せたままでも文明に頼り切るのでもなく、両者を高次元に融合してこそ、環境にやさしくかつ文化的な生活という高い理想を、初めて成就できるのではないでしょうか。

まとめ

今回述べたように、「どこで暮らすか」ではなく「どのように暮らすか」によって、私たちの生活が地球環境に与える影響力は変わり、例えば公共交通網が発展している都市部の場合、マイカー通勤からバス・電車での通勤に変えるだけで、CO²削減に寄与できます。いずれにせよ、末永く安心して生活できる地球環境を保持するには、環境に優しい生活とは何かを個人レベルで強く意識していく必要があるでしょう。

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