【対談:後編】サステナブルなまちづくりを — 東急電鉄が目指すMaaSの終着駅

【対談:後編】サステナブルなまちづくりを — 東急電鉄が目指すMaaSの終着駅

前編では、スタートアップ企業と進めている連携のお話、東急電鉄が大事にしているMaaSの考え方について語っていただきましたが、後半では現在進めているプロジェクトについて、そしてMaaSの未来について語っていただきました。

今年に入ってさまざまなMaaSの実証実験を開始している東急電鉄。まちづくりとMaaSの新時代を開拓し続けるお二人の思いとはー?

東急電鉄の根幹にある「まちづくり」への姿勢

加藤:「東急電鉄は、田園都市株式会社というまちづくりの会社から歴史が始まりました。その後、鉄道会社を買収したため結果的に鉄道会社の社名を名乗っていますが、本質はまちづくりであり、鉄道はあくまで街づくりを構成する事業の一つとして考えられていました。そのため、持っていた不動産をデベロッパーと同じように開発してリーシングしたら終わるのではなく、東急百貨店や東急ストア、東急ホテルズ、東急レクリエーションなど、現場オペレーションを回すところまでを対応しているのが特徴です。つまり、東急グループは、場所と交通インフラを持ち、人を運んで施設のオペレーションを回す、総合的なUXを体現できる企業体なのです。

今後迎える新時代に向けて、お客様が体験するサービス施設や商業施設との連動をはかり、交通オペレーション+αのMaaSを提供していかなくてはなりませんが、そこで必要となるのがそれを体現するための材料です。材料となるデータ、そしてインサイトはスマートドライブとの連携で叶えられるのではないでしょうか。」

森田:「そう、東急電鉄はもともと田園調布の都市開発を行う会社だったんです。1923年、東京に大きな被害をもたらした関東大震災が発生しました。大災害だったにも関わらず、洗足を中心とする田園都市に建てられた住宅は一軒も被害がなかったため、それを知った人たちが多く移り住んできたのです。しかし、そこには都心へ出る手段がない。だったら、電車を開通しよう。鉄道を開通してから街をつくる他の鉄道会社とは主従が違い、このように、まちづくりの手段として電車が取り入れられたんです。」

北川:「面白いですね。場所の活用やまちづくりをするにあたって、購買履歴や人の動きなど、どういったデータをどのように活用されているのでしょうか。」

森田:「グループでは、東急沿線で利用するとお得になる東急カードを発行しており、現在50万人を超えるユーザーがいます。一定エリアではありますが、カードの利用履歴から分析を行っています。
一方、観光型でいうと例えば伊豆高原に訪れる人の●割が踊り子号に乗って、●割が各駅停車を利用して、●割が車でくるという情報が見える化できれば、その情報に合わせて駅前のロータリーの作り方や駅の案内所の仕組みを変える時に活かすことができますが、そこに個人の情報は必要ありません。

そして、各人が最寄り駅に着いたら、その先は二次交通を利用してそれぞれの目的地に向かうと思いますが、季節・曜日・時間帯によって駐車場がどの程度利用されるかがわかれば、オペレーションフローを効率化させることができるようになります。データを活用して、早急にそこまで行き着きたいですね。今回、伊豆の実証実験においては、東急グループを核として他社さんを巻き込みながら進めています。

お客様にとって、移動は単なる手段でしかありませんので、ここにきて各企業が競り合うのは違いますから。そうやってオープンに組めば組むほど、より多くのデータが入ってきます。ただ、一方でこうしたデータをどう活用していくべきかという図式ができないとプレイヤーを増やしていくことができませんので、その点は系列の子会社をハンドリングしながらうまく進めていきたいですね。」

データ×ピーク分散は相性がいい

加藤:「データ活用は、ピーク分散と非常に相性がいいんです。一時期、とある商業施設にお客様が偏りすぎてしまったことがあるんですが、長時間、混雑して待ち時間が発生するとリピート率を大幅に下げてしまうんです。たとえばそこで、この交通ルートを利用して何時に到着するという情報がわかれば、ゆっくり体験できる時間をお知らせして事前予約していただいたり、サービスプロバイダの価格を調整したりすることができるようになるかもしれません。MaaSで取得できる移動データで予測をしながらサービスオペレーションの価格にも反映していく…それが今後目指していきたい場所ですね。」

森田:「地方での活用でいうと伊豆は135号という国道が通っていて、夏季休暇やGWなどの長期休暇は大変混雑するんですね。伊東から小田原までなら、通常30〜40分程度で到着する距離ですが、渋滞にどハマりすると平気で5時間も6時間もかかってしまう。

伊豆は二次交通が弱く、8割の方は車でいらっしゃいますが、その8割をバスやタクシーに少しでも振り分けることができれば、渋滞時間を大幅に減らすことができるかもしれません。そうした課題を東急グループで解決していかなければならないと思っています。これは極論かもれませんが、混雑時のマイカー利用が●割以上だったら走行規制をかけてしまうとか、大混雑時に高速を利用する場合はチャージをいくらかのせて、その分、電車での移動を安くするとか。渋滞への疲れや負担を減らすためにも、公共交通で伊豆にきていただく習慣を根付かせて行きたいですね。」

加藤:「そういった新たな交通手段も提案しながら例えばスマートドライブ社のデータを使って、現在一定である首都高速の料金を時間帯や混在具合によってチャージを変えて最適化できるようになると、都市生活がより快適になるのではないでしょうか。そのような世界観を作り出すためにもMaaSは必須の考え方ですが、システムを作り上げた先に重要になってくるのがサービスを連携してUXを統合していくかですね。」

郊外型MaaSは働き方改革の一手になりうる

森田:「これは郊外型MaaSの話になりますが、インバウンド向けに観光用目的で作ったハイグレードなバスが一台余っていたので、これを活用してたまプラーザから渋谷間で通勤する人を募り、1カ月の実証実験を行ったんです。通常、田園都市線から渋谷までは30分で到着しますが、バスは道路の混雑状況も関係しますので通勤時間はいつもの倍以上になります。

しかし、座席はゆったりめでフットレストもあるし、Wi-Fiやコンセントも完備している。もちろん、通勤時の混雑を緩和する目的もありますが、通勤時間帯の混雑率が185%もの電車に揺られて心身ともに消耗するより、快適なバスの中で座ってのんびり過ごしたり、仕事のメールを確認したりできた方が有意義なんじゃないでしょうか。

そこで、この取り組みを働き方改革と組み合わせて、利用者が乗った瞬間から勤務時間が始まるようにすればどうだろうかと。10時にたまプラーザを出ると同時に始業開始時刻にして、11時過ぎにオフィス近くに到着、そのまま勤務を続ける。そして、渋谷に到着して2時間ぐらい休憩を挟んだら、今度は朝型勤務のアーリーワークの人たちが13時ぐらいにオフィスを出て帰宅の手段として利用する。そうすれば働き方改革にもなりますし、移動中の貴重な時間も無駄になりません。動くシェアオフィスみたいなものを実用化できればと思っています。」

北川:「私たちスマートドライブもコーポレートビジョンに『移動の進化を後押しする』という言葉を掲げていますが、突き詰めると、移動を移動ではないものにしたいということなんです。この空間が次の打ち合わせ場所に行ったら、その間の移動って移動だけど移動というものではなくなる。そういう概念を変えていければいいなと思っていて。

現在展開している事業にフォーカスされると車両管理や保険の割引といった狭いイメージで捉えられてしまうのですが、実際に強みとしているのは、動いているものについているセンサーからデータを集めて解析することで、様々なインサイトを見つける事です。先ほど加藤さんがおっしゃっていたピーク分析も私たちの得意とする分析と相性が良いでしょうし、デバイスにも制限がないのでカメラの映像データなどの他のセンサーデータを活用することも可能です。

不動産の会社様と住宅用マンションにカーシェアのステーションを置くとどの程度駐車場スペースを減らせるといった人の動きの流れを最適化しようという実験したこともありますし、そうしたことも含めてビジョンは近いところにあるかと思います。」

森田:「田園都市沿線でカーシェアやオンデマンドバス(利用者ニーズに応じた移動サービスを提供するバス)などを試験してわかったことが、そもそも地域ごとにメンタリティが全然違うので、シェアリングは意外とハードルが高いということです。CtoCとBtoCの2つのモデルを作っても、CtoCはヒトとヒトになってくるので浸透しづらいんです。」

北川:「BtoBの場合と違って、倍の時間がかかってもより快適な手段を選びたいという人も少なくはありません。」

森田:「個人の価値観によって大きく違ってきますから、一筋縄にはいきませんね。」

コペンハーゲンの衝撃

北川:「さまざまな事業アイデアを出されていますが、すべて社内で起案されているのでしょうか。」

森田:「基本的には社内ですね。もともとは私を含めて4人のチームで立ち上げ、途中で一人増えて今は5人のメンバーで考えています。」

北川:「先にもお話が出ていましたが事業を立ち上げる中で競合となる会社と連携をしたり、スタートアップ企業と持っていないケイパビリティを補完しあったり、そういうマインドで進めてらっしゃるということですね。」

加藤:「はい、ここで非常に重要なポイントが事業者間での連携です。お客様は最終目的地に到着すればいいというシンプルな発想なので、事業者間がそれぞれ連携せずに閉ざしたままだと、囲い込むことはできても人々にとって最適化を図ることはできません。
ただ、データの連携というのはいささかナイーブな部分もありますので、活用するにあたってその辺りをどうクリアにしていくべきか…。いま頭を悩ませているところです。その点について北川さんにもご意見うかがってみたいなと思っておりまして。」

北川:「直接的な回答ではないかもしれませんが、データを集めてどう付加価値をつけていくかという事業を推進する中で気づいたのは、データはそれ単体では価値が低く、色々なつなげることで価値が倍増するということです。各人が持っているデータをつなげることは希少性は半分になるかもしれませんが、全体の価値が3倍になるから、結果として1.5倍にバリューアップするという考え方です。

そのあたりの実感値を持っていらっしゃる方はまだまだ少ないので、『つなげてしまうと自社の重要なアセットの希少価値が半減する』というところばかりを意識されてしまうんです。
当然プライバシーなど今後もっと整備して、ケアしていく必要がある事はたくさんありますが、概念としては希少性が減ったとしてもその分価値が3倍、4倍に膨れ上がれば、結果としては良い方向へと進めますので、事例を提示しながらそこを上手に啓蒙していくことも私たちの役目かなと感じています。」

森田:「2018年9月、ITS世界会議2018でセッションに参加する機会があり、加藤と一緒にコペンハーゲンを訪れました。そこで、現地の空港を見せていただいたのですが、とにかくインパクトがすごかったですね。空港の天井には4,000ほどセンサーが取り付けられていて、どの便のどこ行きの飛行機だとどういう列の並び方になるかみたいなアルゴリズムが組まれているんです。そのため、チェックインカウンターなどすべてを固定せずにフレキシブルに動かすことができ、混雑を回避することができるという。

また、コペンハーゲン空港に到着した人たちから、タクシーがどれぐらい、団体はどれぐらいといった割合を出していて、タクシーに関するデータはコペンハーゲンで売り上げ上位を占めるタクシー会社三社に売られています。コペンハーゲンでタクシーに乗ると料金メーターとは別のモニターが搭載されていて、、『ターミナル1に行くとこんなお客さんの塊がある』みたいな情報が映し出されています。ドライバーはその情報を確認して、効率的な客周りに役立てているのです。

日本にはない先進的なコペンハーゲンでの体験を参考に、今後MaaSを広げて行くときは同じように空港までのワンシーンもつなげていきたいと考えています。」

地方のMaaSは最初の一歩が肝心…?

北川:「いろんなものとつながっていくという意味で、今までまったく接点がなかったような企業やヒトとコラボレーションしているものはありますか。」

森田:「思っているような回答ではないかもしれませんが…ひとつ、それに近いお話をさせてください。
先ほど、観光型MaaSは地域の住民、とくに高齢者を見据えて進めていかなくてはならないというお話をしましたが、今やろうとしていのは入り口部分を広げることです。

高齢者の方って、スマホの所有率が本当に低くて。そのため、今度下田市の文化会館で地元の方向けに説明会を行い、『Izuko』の利用方法やオンデマンド交通でスムーズに移動ができるという話をする予定ですが、いずれもスマホを利用するため、持っていないと話にならないんです。そこで会場に携帯電話会社数社にも来てもらい実際にスマホを体験していただいて、同時にスマホを持つ利便性も伝えていければと。

スマホを触ったことがない人でも、体験すると意外とすぐに操作を覚えてくださいますし、オンデマンド交通で教習したドライバーさんにもご年配の方は多くいましたが、みなさん今はしっかり使いこなしています。はじめは抵抗感があるかもしれませんが、丁寧に、粘り強く取り組んでいけば変えていけるはずです。そうすればMaaSの取り組みも前進します。」

北川:「最後に事業やケイパビリティは違いますが、目指す世界観は重なる部分が大きいですね。最後に、スマートドライブに期待することや希望することなど、コメントを頂戴できればと思いますがいかがでしょうか。」

加藤:「自家用車やバス、物流関連の車両から多くのデータを取得して、それらから何が見えるのかを一緒にブレストしたいですね。
自家用車の場合、マネタイズのポイントがサービスオペレータ側にある可能性が高いため、データを取得してどの時間帯で需要が高いのかがわかれば、的確な対応ができるようになります。」

北川:「そういう意味では今の時点でも接点を作らせていただけるかもしれません。プラットフォーム事業なので幅広いデータをBtoBだけでなくBtoC向けにもアレンジできます。私たちもその強みを活かしてもっとインサイトを深掘りして改善策を講じていくフェーズにいきたいと思っていますので、積極的に進めていきたい部分です。
東急さんをよく利用している方がどういう行動をしていて、この先どのようなものを望んでいるのかがわかれば、今後のまちづくりにも大きく活きてくるはずですし。」

加藤:「あと、これは少し局所的な話になってしまいますが、商業施設の駐車場問題をなんとかしたくて。大規模な商業施設の場合、週末はすぐに満車になってしまい、かなりの機会損失が発生しています。需要予測の視点でデータを分析していけば、的確なサービスオペレーションの改善点が見えてくるかもしれません。

また、今後ぜひとも実現したいのが、事前予約は当然のこと、駐車場の価格をダイナミックプライシングに変えることです。たとえば、スマートドライブの利用でデータをいただいている方に対して、何かしらのインセンティブを返してあげるとか。

ゆくゆくは、日本の車両すべてにセンサーが取り付けられて、そのデータが分析されて、あらゆるサービスや店舗の中で時間の変動を行っていく…スマートドライブ社が社会的な負荷分散ができる仕組みの基盤となってくれることを期待しています。」

北川:「データ分析と予測は、ダイナミックプライシングやピーク分析と相性が良いですし、是非とも実現したいですね。運転に応じて保険料やリース料を変えるような取り組みはすでに一部始めておりますし、、この考え方を広げて、バランスのとれたサステナブルな社会を作っていきたいと思います。」

森田:「私が期待していることとしては、バスやタクシーのオペレーターがどんどん高齢化し全体的に人が少なくなっている中でデータを使った効率化ですね。東急グループの強みはスムーズなオペレーションへの知識や経験を豊富に持っていることであり、そこにスマートドライブのデータを掛け合わせれば社会的な課題解決への道も近くなると思っています。

ただ、データを本当に活かすうえでは、各種オペレーションのことも知っていただくことも大事です。だからこそ一緒に取り組める機会があるといいなと思っています。オペレーションを知っていただくことで、持っているデータの価値は大きく跳ね上がるはずですから。」

北川:「スマートドライブも東急電鉄様にお力添えできるところがないか、何かご一緒させて頂いて新しい価値創造ができるように今後とも頑張っていきたいと思います。お二人とも、本日はありがとうございました!」

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