すべてがスマート化された未来へー「Society5,0」とは

すべてがスマート化された未来へー「Society5,0」とは

2019年5月31日に開催された「スマートシティ推進フォーラム 〜Society 5.0時代の都市・地域づくりへ〜」で注目された、ソサエティ5.0という概念。

これは、「IoT・ロボット・AI」などといった科学技術にもとづく新たな発想・アイデアによって、社会的意義のある価値を見出すことで経済社会に変革をもたらし、日本の成長力を高めようというイノベーション戦略の中核を担うものです。似たようなものとして、ドイツの「インダストリー4,0」や、アメリカの「インダストリアルIT」がありますが、日本が今進めているソサエティ5,0は前者とコンセプト的に、大きく異なる独自概念です。

そもそもSociety5,0とは

ソサエティ5,0とは、2016年1月、内閣府の第5期科学技術基本計画において、我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたもので、同年9月に発足した国内イノベーション戦略の司令塔「未来投資会議」でも、成長戦略の1つとなっています。ソサエティとは社会のこと、つまりソサエティ5,0とは簡単に言うと「5番目の社会」を意味しますが、過去に「ソサエティ1,0~4,0」という言葉が存在していたわけではありません。しかし、ソサエティ5,0を提唱・推進していくにあたって、以下のように後付けで定義されています。

ソサエティ1.0

狩猟社会
動植物を狩猟・採集すべく、少人数で遊動生活を送っていた社会。

ソサエティ2.0

農耕社会
農業が発展したことで定住化が進み、一定規模の集落が形成されルールや指導者が誕生。争いや合議などによって集落が統合され、中央集権による律令制や階級制が確立する時代。

ソサエティ3.0

工業社会
明治維新・文明開化によって、階級制(士農工商)が崩壊。産業革命を経て、農業・水産業・林業などの一次産業から、製造業・建設業・鉱業などの二次産業へ、経済の中心が移行した社会。

ソサエティ4.0

情報社会
戦後の経済発展と石油危機に伴い、不動産業・金融業・運輸通信業など、三次産業が占めるウェイトが増加。情報が鉄・石油等と同等の価値を有する、重要資源として活用される社会。

ソサエティ5.0

新たな社会

つまりソサエティ5,0とは、現在進行形であるソサエティ4,0に次ぐ、日本史上5番目となる「新たな社会」を構築しようという概念と取り組みですが、より理解を深めるには2つのポイントを抑える必要があります。

 ソサエティ1,0~4,0とソサエティ5,0への移行に要する「時系列の差」

日本はなぜ、政府が先頭に立ってソサエティ5,0を推進しているのでしょうか。それは山積する社会問題を解決に導くこの概念を、迅速かつ確実に具現化しなければならないからです。

ソサエティ1,0は数万年レベル、2,0にしても千年単位でじわじわと移行していきましたが、3,0は「10年ひと昔」というように、主力産業が目まぐるしく変化しました。ましてや、4,0である情報社会に移行してからは、昨年リリースされた新しいIT機器や技術が、今年には使い物にならないことすらあります。

さらに、今の情報社会ではサイバー空間にあふれる情報を分析・判断する作業が必要ですが、すさまじいIT技術の進化スピードに使用者の「スキル」はまだ追いついていない状態です。2017年の調査によると、今の日本におけるインターネット利用率は約90%。高水準であるように感じられますが、そのほとんどがスマホやパソコンによる一方通行の閲覧・動画視聴などが主体。そのため、クラウドからのデータを入手して分析するような、スキルを伴う高度な活用をしているユーザーはほとんどいないのです。

また、海外と比較し電子決済に対する不信感や抵抗感が強く、カーシェアリングやライドシェア、オンライン配車サービスなどMaaSへの取り組みが北欧諸国や韓国・中国より遅れている日本は、「スマート化」という分野では後進国になりつつあると言えます。

そんな日本の現状を打破し、スキルがなくともITを使いこなせる社会を作るという概念がソサエティ5,0であり、内閣府によれば「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と定義され、実現によりサイバー空間にある情報を誰もが有効活用できる、「次世代型情報社会」が誕生すると各方面から期待が集まっています。

海外版との「根本的な違い」と「高いハードル」

もう1つのポイントは、製造業の革新や生産性の向上にのみ焦点が当てられている、インダストリー4,0やインダストリアルITと異なり、ソサエティ5,0はIoTなどのデジタル革新により、社会そのものを変えてしまうのがコンセプトであることです。

ドイツが官・民・学連携で進めているインダストリー4,0は、工場の設備にセンサーを行き渡らせデータを収集・生産性を向上させると同時に、サプライチェーン管理の効率化を図り、国内製造業全体を1つの「スマート工場」として機能させようとする構想。また、米国のGE社が進めているインダストリアルITは、製品から稼働データなどの収集や分析をIoT化することにより、物・データ・人を結びつけ生産効率や品質管理の向上、さらに稼働状況の最適化を狙う取り組みです。

一方、ソサエティ5,0はIoT導入を「モノづくり」だけでなくさまざまな分野に広げ、人口減少・超高齢化・環境やエネルギー問題・防災および防犯対策・働き方改革といった日本が今抱える課題を解決し、ひいては新しい価値やサービスが次々と創出される、「超スマートシティ」を世界に先駆けて構築すべく、推進されているものです。

もちろん海外版同様、国内経済の発展や海外競争力の向上も見込めますが、目指すゴールが「一億総参加社会」という点では格段に規模が大きく、政府は実現に向けて2016年から5年間で、26兆円もの巨額な研究開発投資をする見込みです。実現すれば日本は、人類がまだ見たことのない新しい社会の可能性を切り開く存在になり得ますが、現実的には自治体と企業との連携強化や法整備など、クリアすべきハードルも数々あります。

政府や専門機関・大学・大企業レベルではなく、中小企業や地元住民との連携も不可欠ですし、年齢・性別・地域性の違いや家族構成・経済状態・職種など、多岐にわたる国民生活事情にマッチした、マクロなITインフラの開発・整備が必要となります。

Society5,0の仕組み

ソサエティ5,0は、センサーなどにより自動集積したビッグデータをAIが人間を超える電算能力によって高次元に解析し、それらのデータをITモバイル・ロボットやスマートカーなどにフィードバックして指示を送り、それらを遠隔操作する仕組みになっています。

そして、ソサエティ5,0の仕組みが確立すれば、

  • IoTによる情報・知識の共有
  • AIによる情報探索・分析の負担軽減
  • ドローン・自動走行車による輸送効率化と地域格差の是正
  • 無人ロボットによる労働環境の改善と危険回避

などのイノベーションにより、最新IT技術がもたらす恩恵を簡単かつ安全に、すべての国民が平等に享受できるようになります。

Society5,0の実現で社会はどう変わるの?

ソサエティ5,0の実現は、いかにスピードが求められていると言っても一度に進むものではなく、実装しやすい分野から徐々に普及が進むこととなります。その中でも早く、そして多くのユーザーの生活に変化をもたらすのは、AIによるネット活用シーンの変化です。

AIが主体になると、これまで一方通行だった国内のネット利用がデュアル化し、個人別・世代別・性別の検索履歴やECにおける購入履歴など、サイバー空間にあるビッグデータをもとに、ユーザーの趣味・趣向にマッチした商品やサービスが自動提案されるようになります。すでに具体的な導入事例は存在しており、ハウスマートがリリースした中古マンション提案アプリ「カウル」や、フェブリカコミュニケーションズが提供している中古車価格推奨システム「プライシングサジェスト」など、数多くのAIアプリがそこに該当します。

また、メガバンクのみずほ銀行とソフトバンクの共同出資で開発された、日本初のスコアレンディングである「J.Score」は、ユーザーの信用力をAIがスコア化することで審査の是非と融資限度額が決まる、次世代型の金融商品として注目されています。

次に実装が進むと予想されているのはドローン。Amazonでは配送のラスト・ワンマイルにドローンを導入していますし、自然災害発生時の状況把握に一役買っているほか、GPSなどITとの高度な融合が進めば、買い物難民問題が深刻な過疎地域への物資輸送もスマート化できます。さらにドローンは、都市部の総合病院などの専門医によるIT遠隔診断にもとづき、地方の小規模病院で不足しがちな輸血用血液や、貴重なワクチンなどを迅速に届けるという、医療面での活躍も大いに期待されています。

続いて、主にビジネスシーンで活躍が期待できるのが無人ロボットです。ロボットが受付業務を代行する、その名も「変なホテル」の1号店がハウステンボスに誕生し、今では全国に16店舗が展開され、総ロボット従業員数も240人を超えるほど拡大しています。製造業界では、かなり前から重作業や単純作業にロボットを導入していましたが、ロボット技術の進歩とITとの融合により、人材不足が顕著な介護・サービス業への進出も十分期待できそうです。

もっとも実装へのハードルが高いと考えられるのが自動運転。IT端末を操作すれば、入力した目的地まで完全に自動で車移動できるようになるのはまだまだ先かもしれません。とはいえ、現段階で各国内メーカーの新型モデルに搭載している、部分的自動運転システムの精度は高く、ソサエティ5,0が計画通り進み、車が移動手段から「走るITモバイル」へと進化すれば、カーナビの入力内容をAIが分析・運転操作を制御することも可能です。

ここまで進めば、最適なルートへの誘導によって物流・輸送業務の効率向上が図れますし、急ハンドル・急ブレーキ急加速の制限や、法定速度を超えたとき車速をセーブする機能を追加すれば、交通事故ゼロ社会の実現も夢ではありません。

加えて、農業の分野でも自動運転トラクター導入による労働環境改善や、熟練した技術が求められる栽培ノウハウをICTでデータ化し見える化をすることによって、後継者への技術継承が今よりも容易になるのではないでしょうか。

まとめ

ソサエティ5,0が完全に実装されることで、人が行っていた作業もロボットや自動運転車に置き換えられ、最終的には意思決定モジュールであるAIから半ば支配される時代がやってくるのではないか、と警鐘を鳴らす有識者もいます。

しかし、ソサエティ5,0が目指す未来は技術革新による経済発展と、社会問題の解決を両立した「人間中心の社会」です。私たち一人ひとりがITに頼りきりになるのではなく、人間らしいアナログな思考を保ったうえで、新たな社会の到来を期待を込めて迎えるべきかもしれません。

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