シェアリングの新しいスタイル?「SAVS」とはなにか

シェアリングの新しいスタイル?「SAVS」とはなにか

SAVSという新たなキーワードをご存知でしょうか。これはタクシーのようでタクシーではない、乗り合いバスのようで乗り合いバスではない、新しいモビリティスタイルのことです。
この記事では、SAVSが具体的にどのようなサービスか、その仕組みや特徴、メリット・デメリット、そして具体的な取り組み事例をご紹介し、SAVSについて詳細を明らかにします。

タクシーとは違う?SAVSとは

SAVSとは、「Smart Access Vehicle System」の頭文字を取った略語であり、公立はこだて未来大学・名古屋大学と産業技術総合研究所・(株)未来シェアが共同で開発した、シェア型リアルタイムオンデマンド公共交通サービスのプラットフォームのことです。

MaaS先進国であるフィンランド発祥の概念で、簡単に言うと対象の区域内を走っている、タクシーやバスなどの送迎車両をユーザー間でシェアすることで、移動のスマートかを図るシステムを指します。一見、従来からある乗り合いもしくは相乗りサービスと同じように感じますが、SAVSはここへさらに新たなユーザーからの乗車希望を受け、その地点まで迎えに行くことを想定しているため、乗り合いなどと区別して「便乗」と呼ばれています。

この便乗こそがSAVSの根幹となるもので、たとえば別のユーザーから乗車希望が入ると、その希望に応じた場合にどの程度遅れるか、ユーザーを乗車地点に何時に迎えにいけるか、降車地点に何時に送り届けられるか、走行中のすべての車両で計算されます。

そして、その計算結果をもとにシステムが最適な送迎車両をピックアップし、当該車両の予定経路を変更してユーザーを迎えに行く、という仕組みがSAVSです。が、現行の法律では、あらかじめユーザーと行き先が決まっている相乗りは認められていますが、走行中に別のユーザーをピックアップする「便乗」は認められていません。しかしSAVSは、タクシーが持っているデマンド(要求)の回答力と、乗り合いバスの安価で多くのユーザーを輸送できるメリットを一緒に得ようというものです。

SAVSの誕生は意外に古い

SAVSの原型が登場したのは2000年初頭、元は公共交通機関である路線バスをオンデマンド化、つまり乗車要求に即答できる形に置換し、配車を最適化することでいかに効率化できるか研究を始めたことがきっかけでした。

実は、スマホの普及よりかなり前から取り組まれており、現在SAVS を牽引している(株)未来シェアの原型もここから生まれています。もちろん、当時のコンピューターが持つ計算処理能力は、現在と比較にならないほど稚拙ですし、地図を電子化するのもままならない時代ですから、シミュレーションしようにもなかなかうまくいかなったようです。

正直なところ、モビリティ業界的にもビジネスにならない「机上の空論」として扱われた時期も長く、発想の誕生から10年以上経過し、スマホや各アプリが発展しだしてようやく実用化の道が見え始めます。

SAVSの可能性とは

タクシーが駅などで作る客待ちの列は長いものの、かといって街中を走り回るのは燃料とお金の無駄になる。これがタクシー料金が高い大きな要因でもあります。一方、路線バスは路線と時刻表が決まっているため、乗客がいなくても走り続けなければなりません。ユーザーはバス停がなければ乗車できないし、適当な路線がなければ利用価値がありません。

しかし、SAVSが実用化されれば現行の非効率な移動が一気に解消するほか、コスト的にも十分に採算が取れるビジネスとしても成り立たせることができるでしょう。

また、今後はドライバー不足という、少子高齢化や働き方改革による問題もさらに重くのしかかってきます。この課題を解決するためにも、乗用車型とバス型車両を、前述した乗車希望の計算に則って適切に配車すれば、零細輸送会社も経営維持悪が叶うかもしれません。これが実現できれば、日常的な買い物や通院などの移動が困難になっている、郊外や山間地における移動難民の増加にも歯止めをかけられるでしょう。

このように、北欧生まれのSAVSは、時間や燃料にお金の節約から、人材不足・郊外の移動手段確保問題など、日本のモビリティ社会が抱える慢性的問題を根こそぎ解決する可能性を秘めているのです。

SAVSの実証実験&具体的事例

ここまでの解説で、既存交通機関を少し応用するだけで、SAVSが課題を解決できるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。ここからは、国内各地で進行しているSAVSの実証実験や具体的な活用事例についていくつかご紹介します。

クルーズ船外国人客を対象とした実証実験

2017年9~10月にかけ、未来シェアと(株)JTB中国四国が協力し、中国運輸局・山陰インバウンド機構から受託、実施されました。

鳥取県境港や島根県浜田市など、平成29年度広域周遊ルート形成促進事業「宿泊施設での外国人実態調査及び消費拡大のための実証調査」と題し、AIを活用したオンデマンド型相乗り移動サービスを提供。同地域の観光地・レストラン・ショッピングスポットなどを相乗りタクシーで自由に訪問できる仕組みを実証し、クルーズ船寄港時の時間内インパウンド拡大の可能性について調査しました。

この実証実験には、NTTドコモもAIバスを提供して全面協力。使用されたAIバスは、後に東京ビックサイトにて開催された、「ツーリズムEXPOジャパン2017」で展示・試乗デモが行われました。

金沢でのインパウンド向け実証実験

2019年9月には、杜の都として人気の高い古都・金沢市で、外国人観光客を対象にAIを活用しタクシーを配車する実証実験を市中心部で実施しました。

使用されたタクシーには最大8名が乗車でき、英語に対応した専用サイトから希望する乗車場所・人数・目的地を入力するとAIが複数の依頼を集約、客を乗せる順番など最適なルートをタクシーのタブレット端末に表示する仕組みになっています。AIタクシーには、観光スポットを案内する添乗員も乗車しており、1日乗り放題で千円と料金設定もリーズナブルかつシンプル。また、使用アプリは複数言語に対応していたため、参加者からは言語コミュニケーションの不安も解消し楽しく使いやすかったと、一定の評価を得られたようです。

長野県伊那市での「ドアツードア乗合タクシー」実証実験

SAVSの仕掛け人である(株)未来シェアは、長野県伊那市と(株)オリエンタルコンサルタンツが共同で行う「AI最適運行・自動配車サービス(ドアーツードア乗合タクシー)」実証実験への自動配車システムによる技術協力を行いました。

そして、利便性高く効率的な公共交通の運行を行うため、伊那市で「AI最適運行・自動配車サービス(ドアツードア乗合タクシー)」の導入への第一歩として、実証実験を実施しています。2019年3月と11月に実施された本実証では、文字通り家の玄関から目的地、そして帰宅までAI管理され効率的な移動を地元ユーザーが体験しました。

同時に本実証では、三井住友海上火災保険(株)がオリジナルのドラレコ型テレマティクス端末を提供し、運行における安全運転や運行記録のサポートと、走行データ等を活用したリスク分析を行い、より安心で安全な運行につながるサービス開発を目指しています。

名古屋つばめタクシーがSAVSを採用

ここまでは実証実験までの段階ですが、すでに実用化されたSAVSも存在します。愛知県名古屋市を中心に運営しているつばめタクシーグループは、2017年7月から「つばめエアポートリムジン」と呼ばれる送迎サービスを開始。このサービスでは、(株)未来シェア独自の計算AIシステムを活用し、車両の配車ルートや送迎時間を決定。名古屋市内とセントレア空港間のドアtoドア送迎サービスをユーザーに提供しています。

また、SAVSサービス実用化により、今まで困難だと思われていた深夜・早朝発着便や大きな荷物を伴う移動がスムーズになるなど、空港利用者の利便性が上昇するのはもちろん、送迎タクシー運営者の業務改善やコスト・人員削減にも一役買っているようです。

SAVSのデメリットと実現への障壁

SAVSは、あくまで既存のモビリティをAIなどの活用で効率化しようとする疑念であるため、運用体制が整えさえすればそれほど大きなデメリットはでてきません。しかし、机上の空論を脱却し、実効性のある施策として運用するためには、いくつか克服すべき弱点と、いかんともしがたい障壁があるのです。

機動力と採算性

SAVSを活用したサービスは複数ユーザーでの活用が前提のため、個人利用が主体の自家用車と比べると、どうしても機動力や自由度の面で劣ってしまいます。ただしこのデメリットは、モビリティを効率よくシェアすることで得られる各車両の維持費削減効果や、車両・動態管理システムでの安全性向上などで十二分に相殺できるものです。

一方で、運送業者各自がSAVSを積極的に取り入れるには、導入するAIや対応車両・活用アプリの開発などで発生するコストをペイできるように、ビジネスとして成り立たせなくてはなりません。事実、実験で成果が得られたのはインパウンド需要が見込める国際港や観光地がほとんどで、これが観光試算に乏しい地方でもうまくいくのかについては、なんとも言い難いところ。この障壁を超えるには、国や地方自治体の協力が不可欠であり、SAVSという画期的で効果の高いシステムは地方インフラの拡充に役立つとして、予算や人員を積極的につぎ込む必要あるでしょう。

国民性とコロナと

現段階において全く触れないわけにいかないのがコロナとの関係です。SAVSの根本である便乗とコロナ感染を防ぐ「密からの回避」は、残念なことに全く逆の立場にあります。そんな中、「みんなでうまく便乗して移動する」ことを今の時点で普及させるのは、少し前より簡単なことではないでしょう。

ただ、無秩序な「乗り合い」ではなく、換気や消毒など感染対策を徹底し、整然と計算され正確なダイヤで運行する「日本独自のSAVS」を打ち出せば、かえって安全なモビリティとして認知され、爆発的に普及する可能性もあるはずです。

まとめ

SAVSは、実質的な導入デメリットも少なく、AIや自動運転など関連技術の進歩も顕著ため、近い将来、普及が期待されているサービスです。しかし、コロナウィルスというモビリティ業界、いや人類の大敵が現れた以上、SAVSという概念も新しい生活様式に準拠しながら、今までにない進化を求められているのかもしれません。