自動車メーカーで相次ぐ人員削減。自動車メーカーはどこへ進むのか?

自動車メーカーで相次ぐ人員削減。自動車メーカーはどこへ進むのか?

会社としてもっとも苦渋の決断である人員削減。いわゆるリストラは、人件費を大幅にカットするうえで有効な施策ではありますが、貴重な人材の流出や社員のモチベーション低下など、デメリットも多い諸刃の剣です。これまで、自動車業界は終身雇用の代名詞的存在でしたが、日・米・欧の大手自動車メーカーおよび関連企業は大幅な人員削減の断行を進めており、その規模はバブル崩壊やリーマンショックに次ぐ水準に達しつつあります。
今回は、国内外の自動車メーカーが相次いで発表した施策を整理するとともに、自動車業界でリストラの嵐が吹き荒れている背景や、人員削減を断行した後に訪れるであろう「未来」に迫ります。

大手自動車メーカーが次々と人員削減…

まずは、国内外の大手自動車メーカーや自動車関連企業が振るった、人員削減施策の「大鉈」を見ていくことで、同業界が現在さらされている窮状を把握しましょう。

終身雇用神話崩壊か?トヨタ・豊田章夫氏「終身雇用は難しい」との認識

グループ連結では約37万人以上の従業員を抱え、単独ブランドとしての販売台数は世界NO,1のトヨタ自動車をもってしても終身雇用は夢物語なのか…、そんな声が噴出し始めたのは2019年5月頃のこと。日本自動車工業会の会長会見において、「企業へのインセンティブが出てこないと、終身雇用を守っていくのは難しい」との認識をトヨタ・豊田章夫氏が示したことで、自動車業界は「人員整理やむなし」の流れへ一気に傾いています。

これは海外ライバルが大胆な人員コスト圧縮により、CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・EV化)の開発競争激化へ対応していることを受けたもので、管理職約9,800人の夏季ボーナス支給額を前年比で平均4~5%減らすなど、早速、その本気度をあらわにしました。

今期のトヨタ自動車は日本企業初の売上高30兆円超、営業利益2兆5,000億円とこれ以上ない好業績です。その中で異例ともいえるボーナスカットを断行した狙いは、競争激化を見据えた社員の意識改革にあると考えられます。しかし、業績を伸ばしても報酬が削られるという今回の施策は、「行き過ぎたショック療法」という声も出ているほか、前述した豊田氏の認識と相まって「トヨタが大胆な人員削減に踏み切る序章なのでは…」と指摘する有識者も多くいます。

さらに同社は10月末日、傘下の自動車部品メーカー「アイシンAW」と「アイシン精工」を経営統合、2021年4月にはアイシン精工を存続会社として、新会社を設立すると発表しました。CASE開発力強化と経営の合理化を目的とした統合ですが、同時に従業員レベルではなくグループ全体として、「ダウンサイジング」を進めていくという強い意思表示であり、関連企業としてはいつ大鉈がふるわれるか戦々恐々としているのも事実です。

独・ダイムラー 1万人以上の人員削減を計画

内燃機関の新規開発を中止し、EV専用パワートレインに注力する方針を固めた独・ダイムラーは2019年11月29日、2022年末までに全世界のおよそ30万人の従業員のうち、少なくとも1万人を削減すると発表しました。

同社は、管理職10%を含めた大胆な人員削減の実施により、人件費を14億ユーロ(約1,687億円)カットすることで自動運転やEVの開発・生産資金の確保と、膨大な投資で圧迫されている利益率の回復を目指す方針のようです。

しかし、ダイムラーは独国内において「29年まで強制解雇はしない」と従業員代表(日本での労組に相当)と合意しているため、希望退職や採用抑制で人員を減らすことになりますが、有期雇用者の契約継続や海外拠点従業員は対象外。つまり、非正規雇用者や海外の傘下中小企業では、激しいリストラの嵐が吹き荒れるということ、同グループの自動車業界内における強い影響力から、世界中で失業者が溢れかえってしまう可能性を危惧する声も高まっています。

VWグループ・アウディ 世界全従業員の約15%超を削減へ

フォルクスワーゲン傘下のアウディは、66億ドル(約7200億円)のコスト削減を見込み、2025年までに9,500人の雇用を削減すると発表、CEOのBram Schotは声明で「変革の時代において我々は組織のアジャイル化を進めていく」と述べました。

一方、デジタル・EV部門に関しては新たに2,000人の雇用を計画しているほか、インゴルシュタット・ネッカースウルム両主力工場は生産能力を削減しつつ、反対にEV専用の生産ライン新設を予定するなど、「アジャイル=修敏」とは言い難い後手に回った施策。大規模なリストラを敢行した企業に、優秀なエンジニアがこぞって身を寄せるとは考えにくいほか、既存生産ラインを縮小しながらEV生産ラインを新設するのは、「非効率的かつ無理がある」と指摘する声も出ています。

日産自動車 12,500人超の大量リストラも視野に

2019年4~6月期の営業利益が前年同期比98.5%減の16億円、当期純利益が同94.5%減の64億円となった日産自動車は、経営を立て直すべく、2023年3月までになんと約1万2,500人以上を削減する計画を進めていく模様です。

開示された資料によると2020年3月期までに、

  • 福岡・栃木・・・880人
  • 米国・・・1,420人
  • インド・・・1,710人
  • メキシコ・・・1,000人
  • インドネシア・・・830人

など、世界8拠点で合計6,400人を削減する計画の詳細が示され、2023年3月期までに残り6拠点で6,100人削減する予定ですが、その拠点と人員数はまだ開示されていません。決算会見で日産・西川社長は、「(残る候補は)小型車を生産している海外拠点」と発言していますが、固定費削減に直結するのは人件費が高い先進国と考えられるため、稼働率が大きく低下している国内・英国の拠点への圧力が強まると予想されます。

三菱自動車 「聖域なきリストラ」の断行を発表

業績の悪化に歯止めがかからない三菱自動車は11月6日、人員削減を中心とした大規模リストラを進める方針を明らかにしました。

会見に臨んだ加藤隆雄社長・CEOは、「聖域なくコスト構造改革を推進し収益力の回復に全力をあげる」と方針を述べたものの、間接部門の人員増加が組織肥大の要因との見解も示しており、今回リストラ対象の中心に据えられているのは間接部門です。

間接部門とは、開発・生産・販売など業績に直結する直接部門をフォローする、人事・総務・経理・情報システム部門などコーポレート機能を担う部署が該当し、俗にバックオフィスと呼ばれている部門。つまり、経営陣のかじ取りの悪さや魅力的な車種を生み出せていない開発部門、さらに花形である営業・販売部門の成績不振などといった、花形である直接部門のツケを間接部門が払わされる構図となっており、これは他の自動車メーカーでも同じことが言えます。

なぜ今なのか。人員削減の背景とは~人員削減を断行したメーカーに待ち受けるもの~

人員削減を断行する目的は大きく2つ、1つ目は組織の再構築による新ジャンルでの開発力・競争力強化であり、結果はともかくトヨタ・ダイムラー・アウディが進める人員削減施策は、来るCASE時代を見据えたさらなる飛躍への布石にほかなりません。

一方、日産・三菱の人事削減は、業績悪化に歯止めをかけることが目的であり、正直「付け焼刃」的要素が強いため、後述する断行後に待ち受けている展望は両者で少々異なってきます。

その1 企業イメージ・ブランド力・士気の低下

目的に関わらず、人員削減の対象となった従業員は生活の糧を失うことになるため、退職希望者への退職金増額など、よほど手厚い保証制度を合わせて実施しない限り、断行した企業に対する恨み節が、あちこちから紛糾することは目に見えています。

正直、業績向上中であるトヨタはもとより、他のメーカー、とくに業績悪化のために人員削減を打ち出した日産や三菱の場合、近年噴出した出来事の影響を考慮すると、断行後の企業イメージ低下を防ぐ策が見えづらいもの。

また、人員削減はメディアを通じて一般ユーザーに周知されることになるため、自動車メーカーとしてのブランド力が失墜、かえって販売実績が低迷してしまう可能性もあるほか、残留社員もいつリストラされるか疑心暗鬼となり、社への忠誠心や士気が一気に低下します。

自動運転の進捗やEVシフトに対応しなければ、今後生き残っていけないのは確かですが、各自動車メーカーは労使間で綿密な取り決めを交わし、それこそ「聖域のない保証制度」を確立したうえで、最終手段である人員削減を断行すべきかもしれません。

その2 人材流出と間接部門の崩壊

リストラを言い渡されるのは、給料を多くもらっている壮年層である場合が多く、会社にいた年数も長いため、明文化されないノウハウが若年層に伝わらないままリストラに至ると成長スピードが鈍化し、雇用の有効活用という視点では大きなデメリットになります。日頃からベテラン従業員が持つノウハウをアウトプットし、会社共有の財産にしていくことが1番の打開策ですが、社員同士の競争意識もあるため、そう簡単な話ではありません。

また、大規模な人員削減計画が大過なく進行し、一時的に直接部門の業績が回復しても、バックアップする間接部門の体制が崩れていれば、あっという間に元の木阿弥、いや企業存続が困難となる最悪の事態に陥る可能性も否定できません。

業績が不振である時ほど、縁の下の力持ちである間接部門の存在価値を再認識し、直接部門との人員整理バランスを調整しながら、労働時間の短縮や効率的な人員配置の見直しといった働き方改革と並行して慎重に施策を進めていくべきでしょう。

その3 「リストラ=人員削減」ではないことを自覚すれば輝かしい未来も

国内企業は誤解していることが多いのですが、本来リストラとは非採算部門を切り捨てたり、人員削減で人件費をカットしたりするものではなく、事業規模や従業員数の増減問わない「再構築=リストラクチュアリング 」により、新規事業参入への活路を見出す前向きな取り組みです。

そして、自動車メーカーの未来はCASEに対応することで切り拓かれますが、通告の仕方次第で優秀な人材は単なる首切りに終始する企業からどんどん離れ、明確な経営ビジョンを打ち出すメーカーへ集中する可能性もあるでしょう。

まとめ

未開の地を開拓したり都市を再構築したりするには、山林や既存の建物をブルドーザーなどの重機で破壊し更地を形成する必要があるように、「100年に一度の変革期」が到来している自動車産業において、人材削減は避けて通れない「いばらの道」なのかもしれません。

しかし、大手自動車メーカーが抱える従業員の数とその家族、関連産業に与える甚大な影響を考えれば、国際経済の発展に寄与する前向きな取り組みとしてすすめていくべきではないでしょうか。

EV化に関するMobility Data Platform活用を、事例も交えてご紹介します。

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