後編:デジタルマーケティング領域で第一線を走るナイルがモビリティ領域を推進するワケ

後編:デジタルマーケティング領域で第一線を走るナイルがモビリティ領域を推進するワケ

高橋 飛翔のアイコン
高橋 飛翔
代表取締役社長
ナイル株式会社

ナイル株式会社の代表取締役 社長である高橋 飛翔様へのインタビュー記事、後編です。

ナイルがMaaSミライ研究所をスタートしたワケ

2019年7月に、モビリティ革命についてさまざまな観点から検討する「MaaSミライ研究所」をnoteでスタートされましたよね。そこにも意外性を感じました。
もし、CASEで言った場合も、C(コネクテッド)、A(自動化)、S(シェア)、E(電動化)なのでリースが含まれませんし。カーリースはMaaSのどこに位置付けられるのだろうか、なぜMaaSなのかと…。中には、シェアの中にリースの要素が含まれているのか、「カルモ」のどの部分が、MaaSに位置付けられるのか、少し疑問に思う方もいると思います。

※MaaS:Mobility as a Service(サービスとしての移動)の略

CASEという言葉は、ダイムラー社が中長期の経営ヴィジョンとして発表したことで広がったものですが、自動車領域におけるサービス革新や技術革新を考慮したとき、一部で違和感を感じました。というのも、CASEのConnected、Aautonomous、Sharing、Electoric vehicleを表しますが、Sharingという言葉がしっくりこない。今、目の前で起きているモビリティの革命とは、「所有」から「利用」へのシフトです。つまり、「共有」ではなく「利用」であるべきで、CASEのSは、”シェア”ではなくて”サービス”ではないかと。私は、サービスというレイヤーの中にカーリースが入ると考えていますし、さらに厳密にいうと、カーリースはサービスとしての性質は、要はサブスクリプションです。そのため、MaaSの概念を広義で捉えたときに「カルモ」はMaaSにあたり、今後さまざまな付加機能をつけていくことで、よりMaaSに近づいていくと考えています。

ではなぜ、シェアリングではなくサービスなのか。

例えば世界で見るとUberやLyftなどのライドシェアはシェアリングを代表するビジネスです。登録すれば、隙間時間でドライバーとして稼ぐことができますよね。これならシェアリングという言葉が腑に落ちますが、自動運転やAIで路線変更するバスは?様々な交通手段をマルチモーダルにつなぐアプリケーションは?と考えると、違うような気がしてしまうのです。”共有”という言葉より、“利用する”という言い方の方が適切といえるモビリティサービスも多いですし、今後もっとモビリティ関連のサービスは増えていくはず。要するに、アセットとして提供するのではなく、サービスとして提供すること−−−この概念が非常に大事であると。

その上で、CASEのSが、CとAとEを全部従えているのです。Sがあるから、CAEがある。なぜなら、ConnectedもAutoloadusもElectric vehicleも、すべて利用者ニーズに紐付いているからです。サービスとして利用する車、移動手段があるからこそ、自動運転の技術やコネクテッドの情報、給油が不要なErectric vehicleが活かされます。また、情報産業での5G革命・AI革命・IoT革命も、車産業からすると全部Sに紐づいていく、あるいはAに対して寄与していくでしょう。そうした総合的な観点からSはServiceじゃないかなって。

ナイルが今後実現したいのは、カルモで車を利用している方が、フードデリバリーでその車を利用したり、ご近所さんの買い物代行をしてくれたり、みんながハッピーになる仕組みを作ることです。

こうした構想をひっくるめて、カルモはよりMaaSに近づいていくという自負があります。そのためには、このMaaS(モビリティ革命)がどれだけ素晴らしいか、面白いかをしっかり世の人に伝えていかなくてはなりませんし、参入する事業者をもっと増やしていかなくてはならないと思ったため、MaaSミライ研究所を立ち上げました。

現代には多様な技術がありますが、技術があるからサービス作るという考えは、順番が逆じゃないかなと思うことも少なくありません。どんな先端技術でも、サービスに紐づかなければ使いものになりませんし、もったいない気がします。
そこで、MaaSミライ研究所で伝えていきたいのはどんなことでしょうか?

世の中にあるいろんなMaaSの形を発信して、今まで興味がなかった人にもモビリティ革命にある今を意識していただきないなと思います。自動車産業のゲームチェンジって、こんなにインパクトがあってすごいことなんだって、思ってもらえるといいですね。

ここまできて、ナイルが「カルモ」を始めた理由からMaaSミライ研究所を立ち上げるまでの経緯がすべてつながりました。今後、ナイルとして進みたい方向性について教えてください。

海外だとライドシェア一強という状況ですが、おそらく車を利用したビジネスは他にもあるはずです。モノを運ぶとか、料理を運ぶとか、情報を運ぶとか、人ではない何かの移動を、カルモの利用者たちと実現できないかと考えています。

また、車を販売する立場だと、売り切ることだけに注力します。車を売って、あとはお客様の好きなように利用するのはもちろん当たり前のことですが、車って使えば使うほどコストもかかる。そこをコストではなくレベニューにできないかなと。「車の所有=コストがかかる」から持たないのではなく、稼げることだという世界観を作っていきたいんです。つまり、車を売ることと、車を使ってお客様がマネタイズ(収益化)することを同時に提供するというイメージです。

それは、極端に言えば0円で車に乗れるということでしょうか?

スマートドライブの「Smartdrive Cars」も、取得したデータによって車のコストを下げることができますよね。可能性は無限です。今までにない車の可能性を探っていきたいですね。

ポジティブな機能がユーザーとの接点を増やす

スマートドライブと共同で「こんなことが実現できそう」というアイデアやイメージはございますか?

そうですね、たとえば車の万歩計「くる万歩計」とかどうでしょう?笑 

BtoC向けに見守りサービスや危険運転通知のデバイスを提供している企業がいくつかありますが、注意喚起はユーザーがワクワクできるものではありませんよね。私は普段から健康のためにも万歩計をよく利用しますが、頑張って歩いたなと思った時だけ立ち上げて歩数を確認しているんです。そこで「今日は9,000歩も歩きました。お疲れ様です!」なんて言われると、おお、頑張ったな、楽しいな、と前向きな気分になるんですよ笑

それと同じで、運転をした日の終わりにアプリを開いて「今日の運転は良かったね」とやんわりフィードバックがもらえる方が、個人的にはいい気がしていて。

ただ、そこにお金をかける人はなかなかいないので、無料で提供できるようにしなくてはなりませんが、そういうサービスをスマートドライブのデバイスを利用することで出来たら面白いなと思いました。「カルモ」のアプリ立ち上げると、くる万歩計が出てきて、「今日の走行距離は40km、急ブレーキの回数は0回なので、◯◯ポイントです」と表示するとか。そうするとゲーミフィケーションの感覚で安全運転につなげることができるでしょ。あとはすごろくのように、安全運転で60km走ったら6マス進めるとか。楽しくポジティブに利用して欲しいなって思います。

楽しみながら自然と安全運転を意識づけるのは、素晴らしいアイデアですね。
カルモで車を利用すると、付随していろんなサービスが付いてくるし、個人も稼げる仕組みがあるからと、利用者がより増えそうです。

保険の契約者向けアプリって、契約後は、殆ど利用されないイメージがあるんですよね。利用する動機がなければ眠ったままだし、そのまま削除されてしまうことも。そこを改善するには、アプリから車のメンテンナンスを申請できたり、例えば先ほどの万歩計みたいな機能も含めたり、定常的に何かしら利用する理由を作ることとコンテンツ的な要素が必要です。そうすることでユーザーがこまめに訪れるようになり、アプリ内のカルモの車で稼ぐ!というオプションを見て「ちょっとやってみようかな」と思う。そうやって自然と利用されるUXが作れたらいいなと思っています。

未来は現在の延長にあるので、攻めすぎたコンセプトにはしたくない。人の生活に根ざした体験作りをしていくためにも、カジュアルな接し方からスタートできればいいのかなって。

そういう意味では、「アンケートに答えたら◯◯ポイントがもらえる」というわかりやすいしくみでもいいかと思いますが、いかがでしょうか。「カルモ」の場合、契約者が車の運転距離や安全運転度合いに応じてポイントが付与されるとか。

または物流倉庫系の企業とAPIでつなぎ、荷物の一部を運べる人を募ることもできそうです。カルモの利用者が車での帰宅ついでにラストワンマイルをフォローし、ポイントをもらうとか。

そういう仕組み作りも考えています。

最近、実は子どもが生まれたばかりで目が離せないので、スーパーやコンビニの買い物代行サービスを利用するようになりました。200〜300円の配送料をプラスするだけで、自宅まで生鮮食品を届けてくれる、利用者としては大変ありがたいし助かるサービスですが、スーパーとしては殆ど収益になりません。でも、高齢者や小さなお子様がいる主婦の方など、配送のニーズは確実にあるでしょう。そこを、ドライバーが空き時間を活用して補えるようにできたらいいなって。

モノを買う・モノを運ぶニーズはいつでもどこにでもあるものです。

実は過去に、IKEAで面白いサービスがありました。今でこそ、ECサイトがありますが、昔は現地に行かなければ商品を購入することができなかったんですよね。ただ、IKEAがある場所は限られています。そこでIKEAが独自に開発したのが、商品を買い物をして欲しい人と、その希望商品買ってくる人をマッチングするサービスです。

「IKEAのあのソファーが欲しいけど、家からは遠いし、車もないし…」
「私は近くに住んでいるので、代わりに買ってきましょうか。配送も対応しますよ。」

今はネットショッピングが簡単にできる時代なので、こういうやりとりを見かけなくなりましたが、あってもいいと思うんですよね。

そうですね。フードデリバリーとか。

Uberも日本では規制の壁をなかなか越えられず、フードデリバリーに舵を切ったように感じます。

本国のUberも「UberEATS」の取扱高が20%を超えてきています。もしかすると、5年後には「UberEATS」の会社になっているかもしれませんね。

最近ではいろんなプレイヤーがMaaSに参入しているのが非常に面白いなと感じています。

例えば、自動車業界とは異業種である不動産業界もMaaSを無視できなくなるはずです。交通と住む場所の兼ね合いで、通勤しやすいからと、東京駅圏内から1時間以内のところを選んでも、自動運転が一般化すれば仕事をしながら出勤できるようになりますし。

通勤を含む移動が習慣化すると、あまりじっくり考えることはありませんが、打ち合わせや商談での電車やバス、車での移動に、人は月々何十時間、年間だと何百時間以上も費やしているわけです。そうなってくると移動時間そのものが無駄なんじゃないかという考え方が生まれてきますし、思いもよらなかった効率化系のサービスが交通系の業界に打撃を与えることもあるでしょう。

いろんな業界が参入してくれると盛り上がりますし、MaaSの浸透率も上がります。みんながMaaS、MaaSと言えば言うほど、世の中がMaaS色に変わっていく。だからこそ、この流れにうまく乗りつつ、MaaSの本質を伝えていきたいですね。

そうですね。本日は有難うございました。

DOWNLOAD

セッション資料イメージ