【対談:前編】クルマの進化でマーケティングはどう変わる?

【対談:前編】クルマの進化でマーケティングはどう変わる?

株式会社IDOM デジタルマーケティングセクション セクションリーダー中澤 伸也(なかざわ・しんや)様へのインタビュー記事、前編です。

中澤さまとIDOMのご紹介

北川:「まずは、中澤さまとIDOMでの業務内容についてお教えいただけますか?」

中澤:「私は現在、IDOM(旧名ガリバー)のデジタルマーケティング責任者を勤めています。ファーストキャリアは家電量販店のソフマップからスタートしました。店頭接客に始まり、店長を7年ほど経験。そして、2000年には売り上げ100億円を目指すという目標を掲げソフマップのECサイト立ち上げを担当しました。ここを起点にWebの世界へ入ります。その後、ゴルフ情報ポータルのGDO(ゴルフダイジェストオンライン)でおよそ8年間、マーケティングの責任者を勤め、次に、中古車買取と販売の最大手「ガリバー」の運営をしているIDOMへ。店頭のリアルな接客がベースにありつつも、デジタルマーケティングが自分の主眼になっているため、O2Oマーケティングが私のもっとも得意な領域です。

ミッションは、IDOMのマーケティング全体を変革すること。IDOMは完全なるO2O型の会社ですので、最終的には店頭での商談が受注ポイントです。そのため、デジタルとどう組み合わせて商談へとつなげる部分を集客していくかを考えています。現在は全国に550店舗を構えていますが、集客の構成比はデジタルからの流入が50%と、実は半分を占めています。私自身は、IDOM全体のマーケティングの最適化と変革を担うとともに、デジタルを使った新しいプロダクトやマーケティングサービスなど、新規事業開発を推進していく立場です。」

IDOMのデータを活用したマーケティング

北川:「中澤さまが普段からマーケティングに活用されているデータや、今後マーケティングに活用したい車のデータはございますか?」

中澤:「現在はデータベースやデータマーケティングを強化している最中で、BigQueryを使ってユーザーのWeb上での行動や、コミュニケーションを分析していますが、車関連の情報はまだ統合しきれていません。ですので、今はまだ、データベースをうまく活用できているとは言い難いのです。

高精度なWebのマーケティングデータを保有していますが、それらは主に査定するまで、購買するまでといった、“お客さんになる一歩手前”までのデータです。買取・購入後のユーザーのカーライフにおけるデータは未取得となるため、今後取得を強化していく必要があると考えています。

事業を進化させていくために、車両や個人の情報からカーライフにまつわるデータをいかに蓄積していくかが大きな課題になっているのです。」

北川:「たとえば、クッキーデータやアンケートなどの機能を使ってデータを集めていくイメージでしょうか?」

中澤:「そうですね、クッキーやWeb上の行動に加え、最近ではチャットマーケティングに注力していますので、チャット上のテキストログ、つまりユーザーとのコミュニケーションデータを蓄積しています。」

北川:「なるほど。それらのデータは先ほどお話されていた車を買うまでのデータですので、購入後のデータを今後集めていきたいということですね。」

中澤「2回目や3回目の購入、車以外の商品やサービスを提供するなど、再来店につなげる接点を作るところはこれからになります。もちろん今までいくつもの施策を打ってきましたが、アクイジション中心のビジネスモデルで車の購入と買取がメインでした。しかし、その後のビジネスをどのように展開していくかが目の前にある経営課題です。」

クルマの進化によってマーケティングはどう変わるのか

北川:「スマートドライブが提供しているSmartDrive Carsでは、安全運転をしている方にはAmazonポイントなどに交換できるポイントを提供したり、走行データから近くのお店のお得な情報を提供したりするなど、データによってサービスの拡充を考えています。情報を取得するには、もちろんプライバシーの管理は徹底しますが、うまく情報を活用することでお客様にとっても意味のあるマーケティングができるのではないかと常に考えています。

IDOM社の中で、こういう情報があったらマーケティングに使えるというデータはございますか?」

中澤:「現業ではありませんが、いくつか構想しているビジネスはあります。先ほどもお伝えしましたが、私たちが今後やっていきたいのは、販売後のお客様のカーライフを充実させること。

たとえばそこで、故障状況やタイヤの空気圧などの情報が取得できれば、販売後も包括的にお客様をサポートすることができます。少し異なるかもしれませんが、お客様の車のガードマンといったイメージでしょうか。販売後のユーザーのカーライフをガッチリと守る、みたいな。その部分をサービスとして構築していきたいと思っていますが、それが技術的なハードルが非常に高い。お客様の走行状態、故障状況、もしくは故障の予測をODB2で取得し、車種ごとに解析しなくてはならないからです。

車種ごと、車両ごとに解析・判断する高度な技術が必要になりますので、残念ながら、まだ構想レベルなんです。」

北川:「スマートドライブが所有しているデータと組み合わせることができれば、構想を一歩先へと前進させることができるかもしれません。データ活用のタイムラインは、短期・中長期・長期の3つで考えられるかと思います。

短期は、走行距離によっておおよその買い換えタイミングが分かること。日常の運転の癖や傾向といったデータからはさまざまな予測ができます。たとえば、非常に優しい運転をしていて、子ども服や赤ちゃんグッズを販売しているお店によく行っている。なおかつ運転は週末だけ、という情報が分かるとしましょう。この3つの情報から、小さなお子様がいる、さらに今後、家族が増えるかもしれないということが予想できる。そうすれば『今より少し大きめのファミリーカーに買い換えませんか』『最近、こんなファミリーカーが入ってきました!大型で使い勝手がいいのでオススメですよ』というような提案ができるかもしれません。

次に、中長期的な目線で考えてみましょう。スマートドライブでは、自動車メーカーから直接データを預かることを始めているので、AIを故障情報などと組み合わせて、近い将来には故障が起きそうな時期や残価の予測ができるようになるかもしれません。

長期については、まだまだ先の話ではありますが、自動運転が普及したらどのようなマーケティングで車を売っていくべきかを深堀りするために、スマートドライブとの接点をディスカッションできればと思っています。」

中澤:「たとえばえすが、弊社が販売した車両にセンサーを取り付けることでしょうか。センサーで取得した情報から追加で販売したい付帯商品を提案したり、買い替えのタイミングが分かったりできればといいなと思っていますが、中古車の場合、通常の買い替えサイクルが7年と言われており、次のお客さまとの接点が結構先になってしまうんですよ。そうすると、取り付けたセンサーの設置コストの元が取れませんし、本当に有効なのかが見えづらくなってしまう。

そう考えると、いま私たちが提供しているサービス以外でセンサーに関するコストの収益ポイントを見つけなくてはなりません。最終的には、車に関連するサービスを提供したいですが、それを現実の事業として成立させるには、センサーから得られた情報を社外のプレイヤーに提供して、プロフィットのポイントを作っていく必要があると考えています。

では、車に搭載したセンサーから集めたデータをもとに、お客様が費用を払ってまで提供できるものは何か。そこを考えなくてはなりませんが、もともと車の売買を中心に行ってきた企業ですし、アイデアを絞り出すのも至難の技だったりするんです。ですので、データはプロダクトやサービスとして別の事業会社に提供できればと思っています。車はデータを取得するための媒体であると考えて事業展開をしていく。そんなアプローチで他社さんとうまくレベニューシェアができるとおもしろいなと思います。」

データはオープンプラットフォームで活用の幅が広がる

北川:「データ活用もそうですが、ビジネスモデルとして成り立たせるのは思っているより簡単ではありませんしね。また、一社のみですべてのコストを負担するのは非常に負荷がかかることです。

回収のサイクルが長いということは、そもそもLTVに合わないかもしれない。ですので、今までの考え方を打ち破り、データをいろんな会社が使えるようにして、みんなでコストを負担し合う方向へ持っていかなければ、データ活用は進まないだろうと思っています。逆にそこが突破できれば、多方から『これに使えるかも』というアイデアの掛け合いが起き、イノベーションの輪が広がっていくのではないでしょうか?」

中澤:「そうですね。車両から得られるデータは、車関連事業のプレイヤーよりも、外にいるプレイヤーのほうが、むしろビジネスに活かしやすいはず。IDOMのような事業会社ですと、物理的な車検やモノの設定のほうが収益を生みやすいので、本業側ではデータの活用がしづらい部分も多いのです。」

北川:「データ活用というテーマでみなさん色んなアイデアを出してくれるのですが、最終的にいつもコストの部分で話が止まってしまうんです。しかし、その先にある『そのデータをみんなが使えるようなビジネスモデルは何か』『誰からいくら捻出してもらうか』という議論もっとしていくべきなんですよね。そうじゃないと、変化は生まれません。」

中澤:「データはオープンプラットフォームになっていくべきですし、ここ最近ではブロックチェーンの技術もあるので、主幹となる会社が公的な形にすることもできるでしょう。そうすると、データの取得ポイントとして、私たちのような販売業者が強みを発揮することができます。

取得したデータを価値へと変えていくには母集団が必要になりますが、日本トップシェアと言えども、私たちが売っている中古車の数は日本全体で流通している数からすればたかが知れている。そうなると、やはり一社ではあまり意味のあるデータが見出せないのではないかと思っています。」

北川:「オープンプラットフォームができれば、逆にIDOM社がデータを活用してアプローチをすることができるかもしれませんね。そうした流れができれば、本当の意味でのデータ活用の第一フェーズが進むのではないでしょうか?」

中澤:「現状ではまだ母数が少ないので、サンプルデータとして製品開発や大きな意味でのサービス開発には使えるとは思います。ただ、直接的にプロフィット化するようなインパクトはまだ持ち得ていないのです。要するに、IDOMを含め、他社からも相当数の車両データが必要です。」

北川:「あとは、消費者がデータを渡してもいいと思えるようなメリットを事業者側が享受できれば、爆発的に普及するはずです。」

中澤:「僕が考えているのは二つの面。一つは、データ自体のプロフィット化。オープンプラットフォームとして媒体の一社になることです。もう一つの側面は、消費者がお金を払ってでも受けたいと思うような高付加価値型のサービスを提供することです。」

北川:「それが成り立てば、データ活用でいろんなことができますよね。」

中澤:「ただ、高付加価値型のサービスの最大のボトルネックが、車両ごとの解析がどこまでできるかということです。ここは早く解決の糸口を見つけたい。」

>>>後編につづく

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