プロに聞く、モビリティ社会におけるコミュニケーションの変化

プロに聞く、モビリティ社会におけるコミュニケーションの変化

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三浦 崇宏
代表取締役 PR/CreativeDirector
The Breakthrough Company GO
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太田 郁子
代表取締役社長 共同CEO
株式会社博報堂ケトル
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鈴木 瑛
Head of X Design Center
TikTok Ads

これから進化するのはモビリティだけでしょうか? ヒトとクルマのコミュニケーションはどう進化するのでしょうか? シームレスな体験によって移動はただの手段ではなくなろうとしていますが、効率化された未来のモビリティ社会で人々が求めるものはなんでしょうか。本セッションレポートでは、進化するモビリティ社会における最適なコミュニケーションを通して忘れてはいけないことが見えてくることでしょう。

自己紹介

三浦:The Breakthrough Company GOで代表取締役、PR/CreativeDirectorを務める三浦と申します。

もともと博報堂でスマートドライブのブランディングとグロースのお手伝いしていた縁で、本カンファレンスにお呼びいただきました。博報堂時代には6年ほど日産のマーケティングとPRのお手伝いを一通りさせていただき、その後独立してThe Breakthrough Company GOにて広告/PR並びにクライアントさんの新規事業の開発、マーケティングコンサルタントなどをしております。スマートドライブでは、BtoC向け事業の「SmartDrive Cars」のプロモーションをお手伝いさせていただきました。

鈴木:私は大学を卒業後、電通に入社してクリエイティブディレクターとしてストラテジーとクリエイティブの仕事をしてきました。そして2019年からTikTok Adsにジョインし、TikTok他プロダクトを活用した課題解決提案を行っているX Design Centerのリードをしています。

TikTokはクリエイティブで楽しい、忘れられない瞬間をシェアしたり、視聴したりできるモバイル向けのショートムービープラットフォームです。日本のサービスというイメージ持たれているかと思いますが、実はグローバルのプラットフォームで、150カ国とリージョン、75の言語に対応しております。2019年8月にはApple Store, Google PlayでグローバルNo.1を獲得しました。

今日は門外漢だからこそ、みなさまに向けて新しい視点をご提供できればと思っております。

太田:私は広告会社の博報堂の子会社のクリエイティブエージェンシー「博報堂ケトル」で共同CEOをしています。

三浦さんと出自が同じで、博報堂の入社時はストラテジックプランナーとして戦略立案を、博報堂ケトルに出向してからはクリエイティブ、PRを経験し、今に至ります。

博報堂ケトルという社名はやかんからきており、「アイデアで世の中を沸騰させたい」というのがコンセプトです。もう一つ、掲げているテーマが「手口ニュートラル」。これをお客様の課題解決の方針としています。

かつて広告業界では「メディアニュートラル」という言葉が流行った時代がありました。これはTVCMだけではなく、届けたい人に最適なメディアで届けていこうという考え方です。ただ、それはメディアを選んでいるだけで、同じクリエイティブの出し先違いというだけ。届けたい人に届けたいことを伝えるために、手口はすべてニュートラルで、ゼロベースで考えていくことを大事にしています。

今の企業広告やコミュニケーションってどうですか?

三浦:私と鈴木さんと太田さん、三人の共通点は2つあります。
一つは、CMだけでなく、事業やWebサイトを作ってコミュニケーション開発するなど、先端領域の仕事を多く経験しているところ。もう一つは、三人とも、自動車会社のコミュニケーションをお手伝いした経験があることです。

まずは「今の企業広告やコミュニケーションってどうですか」という、ざっくりとした議題から。広告をモビリティにした方がテーマに合いますので、「モビリティが進化したらどうコミュニケーションが変わるのか」について話し合えればと思います。

太田:モビリティの進化をどう捉えるかがポイントですが、広告的な発想でいうと、自動運転とコネクテッドカーの一般化→運転しなくて良い→手や視線が空く→クルマ自体がメディアになる。と、単純に言えばこのような発想へつながります。自動化によって空いた1時間でどんな情報のインプットが出来るか。それがコミュニケーションの進化のきっかけになっていくのではないでしょうか。

鈴木:ハンズフリーで、自動運転で、何ならベッドから会社のデスクまで勝手に運んでくれるみたいな世界を想像すると、一人当たりの情報摂取の機会が今以上に増えていきます。

2010年くらいに不動産会社が行った調査だと、サラリーマンは通勤に片道1時間をかけているそうです。さらに2017年に博報堂が実施した調査では、移動中、60%の人がスマホを使っていると。

現在も移動時間中はみなさん、情報摂取をされていると思いますが、それが完全自動になると、移動中に割けるアテンションがもっと深くなると思っていて。自動で移動ができるようになると、動画に没入できる。このように、アテンションが深くなればメディアも価値が変わってくるでしょう。

三浦:最近面白かったことがあって。あるパーティから別のパーティに移動する時、そこで知り合ったモデルの女の子と相乗りしたんです。車内でその女の子がスマホを出したから、インスタでも見るのかなと思ったら、いきなり話し始めたんですよ。

僕らは新聞から雑誌、雑誌からスマホ、スキマ時間に情報を受信する世代だった。それが、スキマ時間に発信する世代になったという。

モビリティの進化と聞くと真っ先にクルマをイメージしますが、わかりやすくいうと都市が進化することだし、クルマではなく部屋でも移動はできるわけで。そうなれば、受信の深さも変わるし、発信する仕掛けを考えた方がいいかもしれない。いわゆるコネクテッドカーは、情報の受信だけですか、それとも発信もするのでしょうか?

太田:推察になってしまいますが、まだ「どのようなコンテンツを車内で提供するか」というイメージの方が強いですよね。一部では、ドライブレコーダーで撮った映像を運転手が見ている風景として発信していくとか、クルマの中でカラオケしている姿を別の移動中の人と共有して、移動しながら宴会するみたいな話もありますが。

三浦:受信の質はもちろんですが、クルマを発信する空間としてどう捉えるか。クルマが移動空間でなく、居住空間に変わるとどうなるか。そういう考え方になるでしょうか。

太田:少し前に人間の集中力が金魚以下になったというニュースが話題になりました。最近の研究では、金魚の集中力が9秒のところ、人間の集中力は1.3秒まで落ちていると言うのです。これは情報が増え過ぎてしまったことが原因。逆に言えば、1.3秒で何を選んでもらうのか、そこの発想の転換が大事かもしれません。

三浦:1.3秒しか持たないなら、受信ではなく発信のきっかけを与えるほうが早かったりして。

モビリティの話に戻りますが、クルマの描き方やプロモーションの仕掛け方、クルマのCMで、過去と今と変わったことはありますか? 過去には「小さいことは良いことだ」と言うフォルクスワーゲンの広告が注目されていましたよね。

太田:実際にありますね。スポーツや嗜好品としてのクルマは今後も残ると思いますが、所有欲求と切り離して考えるべきでしょう。

三浦:所有欲求ではないとすると、何をどのように描けばいいですか?

鈴木:クルマは、MaaSの概念の中では自動運転やサービスと位置付けされていますが、それはあくまでファンクショナルなもの。若者の車離れと言われていても、実際に若い人たちの声を聞くと、クルマの所有はコスパが悪いと単純にコスパで判断しているだけで好き嫌いじゃないんです。ただ、体験はコスパが良いと思われていますので、シェアしてコスパが上がれば、見方も変わってくるでしょう。

三浦:カーシェアや自動運転が浸透すれば、一人一台の時代が戻ってくるでしょうか。

鈴木:一人一台というよりは、社会における最適台数になると思います。

三浦:インフラとして必要台数が置かれるということ?

太田:日本にはおよそ7,600万台の車があるというデータがあります。この台数は、人口と比べると一人一台に近いですよね。ただ、そのほとんどが駐車場に停まったままですので、そこが解消され、最適台数になっていくだろうと思っています。

鈴木 :モビリティの進化、社会の進化とは、無駄がなくなるということ。クルマは場所も取りますしね。

移動という体験の中で大事にしたいこと

三浦:広告クリエイターあるあるに、タクシーアドをだいたい消すというのがあります。

広告は、得てして効率論を目指すじゃないですか、インターネットで椅子を購入すると必ず、もう一脚いかがですか? というバナーが出てくるように。

質の低いAIが判断したニーズに押し込んでも駄目ですし、無駄な広告のリーチが増えることを避けなければなりません。そこで考えるべきは、何を伝えれば暮らしに貢献できるかです。

私たちは、いかに豊かな情報を届けることができるかを考えながら、日々、コミュニケーションをしています。ちなみに、モビリティが変われば社会の気分も変わるでしょうか。

太田:無駄がなくなりすぎてもギスギスしてしまいますよね。

話が少しズレてしまいますが、もともと新幹線を移動手段としてしか考えていなかったんですが、子どもが生まれてから「はやぶさに乗りたいから東北に行こう」と新幹線への関心度があがりました。

移動そのものがリッチな体験になっているし、目的地さえ変えることができるんだと実感しましたね。

三浦:おもしろいですね。同じ3時間を部屋で過ごすのなら、窓の風景が変わっているほうがワクワクしますし。そのほうが心は豊かになるはず。

鈴木:無駄がなくなることは人間への回帰だと思っています。マシンが進化して仕事奪われる論が語られていますが、その人にしかできないことに時間を割いていけば良い訳ですし。

三浦:しかし、自分にしかできないことが見つからない人もいると思います。

鈴木:たとえば、お父さんや会社の上司など、その人にしかできない役割があるはずなので、その点については問題ないと思います。

三浦:テクノロジーが進化した結果、より人間が人間らしい暮らしを営むことができるようになる。

ただ、パソコンが普及して生活が便利になりましたが、仕事が増えている気がします。せっかく豊かな暮らしをもたらす余裕が出来たのに、その暇を埋めてしまう。

太田:それこそ、日本人的な感覚かもしれませんね。

鈴木:海外では基本は17時、18時に、金曜日でも15時くらいに帰る人もいますね。ただ、それも国や文化の違いが大きいのではないでしょうか。

三浦:この間、シリコンバレーのGoogleに行きましたが、みなさん17時や18時に帰るので、その理由が知りたくて声をかけたんです。すると「自分の仕事はしっかりとやっていますよ」と返事が返ってきました。私はワーカホリックなので、仕事をしない時間に何をすればいいかわからなくなってしまうんですよね。

同社の日本人社員に聞くと、「人によっては家に帰って家事をする人もいるし、昼間はオフィスで働いて、夕方は自分のサービスを作っている人もいる」とのこと。あらゆるものが最適化した結果、自分が自分でいるためのアクションを増やせるようになるということなのかと、彼らを見て思いました。

次のモビリティ社会に向けて、クリエイターは何をすべきか

鈴木:ここで少し非人間的なことを言っていいでしょうか。モビリティが大きなメディアになると、スマホ型のハコに1日中いるみたいな感覚になりそうだなって。

そうなれば、各所に取り付けられたセンサーから、本当にこの広告は見られているのか、広告を見て表情が変わったとか、人の行動が可視化され、デジタルマーケティングの世界も次の世界へと移るでしょう。

三浦:視聴率より視聴質ですね。本当に見ているのか、見たいと思っているのか、欲しいと思われているのかが、巨大なセンサが内蔵されたクルマに判断されてしまうと。

鈴木:アドビジネスは小さいとはいえ結構な規模になりますからね。

三浦:6兆円くらいでしょうか。

鈴木:そう。それを牛耳れるということです。

アップルの代わりにフォードが来るとなると、ディストピアっぽく見えてしまいますが、それを人が感じない程度に隠せるのなら良い世界なんじゃないかなって。

三浦:その恐怖感を見ないようにするか、向き合うかというのは映画マトリックスの世界感ですね。

太田:フィルターバブルみたいな世界になっていく気がしますね。データが増えて、モビリティから位置情報などのビッグデータが取れて、広告としては最適なものを届けているのに、セレンディピティや人間らしさ、人間のクリエイティビティが失われてしまうという。

三浦:SNSは簡単につながることができるけど、自分の世界を狭くしてしまうものでもあります。Twitterは自分の知り合いしかフォローしないし、Facebookは友達ばかりで自分の好きな情報しか表示されないから、現実的には世界を狭くさせてしまうんです。Twitterで、今年は選挙が盛り上がっている、若者が選挙に行っているという情報を目にしても、若者の投票率が過去最低だったとニュースで流れていたりしますよね。これがリアル。

必要なものだけでなく、無駄なものも余計なものも一緒に向き合っていかないと、クリエイティビティは鍛えられないと思います。

太田:着眼点を変えれば、地方にとってはチャンスかもしれません。モビリティで位置情報と結びついて、知らなかった地方の魅力を知ることができるなど、地方創生に役立ちますし。モビリティとローカルを結びつけたいという思いは個人的に持っています。

三浦:私も去年から、毎週末必ず地方に行っています。
5Gなどのテクノロジーによって、都心との情報インフラの格差がないままに、普段と全く違う人と触れ合える、全く違う景色を見るというのは非常に素晴らしいことです。モビリティの進化でセンサーテクノロジーが人間性を包括する状況になる一方で、地方に行きやすくなって人間性が強化されるという話もあるんじゃないでしょうか。

そういう意味でいうと、進化したモビリティは移動の進化であり、センシングによる自己認識の進化であり、メディアコントロールの進化であると同時に、ある種セレンディピティの進化になる可能性もある。

鈴木:究極に計算されたセレンディピティは野生のセレンディピティより遥かに効率的ですし、新しい人間的な恩恵ももたらしてくれると思います。

三浦:セレンディピティすら、AIが育ててくれる。

鈴木:とはいえ、世代間ギャップもありますね。スマホネイティブの人と会うと、今の広告がアルゴリズムで配信されていることをみんな知っていますし。

太田:このニュースを読むとフィードが同じようなニュースで埋まるから、あえてクリックしないという。

三浦:そういう自己認識でスマホを触っている世代。

鈴木:若い世代を筆頭に、割と自己開示しても良いのではいいのではという空気になっている気がしますね。

三浦:ただ、そうなると自分自身でテクノロジーを乗りこなす、統御していくということが重要になっていきます。
時間もありませんので、ここで会場から質問を募りたいと思います。

会場質問:セレンディピティすらAIに制御されるのは、あまり良い気がしません。

太田:ちなみに、TikTokはセレンディピティを重視しているのですか?

鈴木:アルゴリズムは公にしていませんし、コメントできませんので個人の見解にはなりますが、どんなコンテンツに個人が興味を持つのか、各々に傾向はありますし、推測以上のものをランダムに表示することは、体験としては悪いことではないと考えています。

三浦:何よりも、セレンディピティが必要だという自覚が大事です。それがあることで、安易にスマホにコントロールされないようにしよう、週末は少し無理をしてでも出かけようと思えますし。どれだけ空間における情報が統御されようとも、肉体を持っているのは自分自身です。その肉体をどこに運ぶか、視点をどこに外すかをコントロールするために、セレンディピティが大事だと言い続けることです。

コミュニケーションや広告のプロモーションの話というより、人間がどう生きるか、進化した都市の中でどう自分をコントロールしていくのかという話になったかと思います。テクノロジーやナレッジより、今後人間がどう生きるかを考えるほうがもっとも重要なことですから。