後編:BCG Digital Venturesが語る、大企業が新規事業を成功させる方法

後編:BCG Digital Venturesが語る、大企業が新規事業を成功させる方法

前編では、BCGデジタルベンチャーズ(以下BCGDV)がグローバルの大企業と共に取り組んだ新規事業の話を伺いました。

後編ではデータの活用方法を中心に伺いました。

モビリティデータの活用方法とは?

元垣内:「次にお伺いしたいテーマはデータの活用についてです。」

山家:「MaaSもそうですが、業界に限らずデータの活用は一般的になっていくと思います。一方で、新規事業を立ち上げる際は、利用者の課題を解決できるか、そもそもフィジビリティがあるのか、どのようにしてビジネスとして勝つのかなど、ポイントをいくつか挙げてそれに対するクライアントの強みを優先に考えなくてはなりません。

たとえば、クライアントが、大量のデータを収集、活用できる可能性があっても、その効率的な蓄積や分析は得意ではないかも知れない。そういった場合に、データ分析基盤のような仕組みを自前でゼロから用意することは、必ずしも競争優位にはつながらないことがあります。」

元垣内:「スマートドライブでも、地図データやドライブレコーダーの動画を集めながら分析をするために、さまざまな画像処理の技術を必要としています。ただし、すべて自社で賄おうとせず、一部で外部のサービスを利用することもあります。」

山家:「開発からリリースまでのスピード感を考えると、必ずしもデータ周りをスクラッチ開発で作ることがベストであるとは限りません。サービスの強みとなる部分は、じっくり時間と労力をかけて作りますが、それ以外の部分に関しては、外部と連携して開発スピードをあげたほうがいいと思っています。大量のデータを蓄積するだけでも、莫大なコストがかかりますし、大量のデータを分析するのも、かなりの手間とデータを扱える人材が必要です。すでにソリューションを持っている企業と手を組むなど、注力すべきところとそうでないところを切り分けて考えた方が、早くサービスをリリースできます。

たとえば、MaaS関連のサービスを開発する場合、サービス全体のデザインやユーザーインターフェイスをBCGDVが担当して、データ周りをスマートドライブが担当するとか。そうすることで上手く連携できそうですよね。」

元垣内:「それができると嬉しいですね! 最近、各方面から『MaaS関連の新しいサービスを展開したい』と相談を受けることが増えてきました。MaaSはバズワードにもなっていますし、新規サービスに挑むのは非常に素晴らしいことだと思っています。しかし、実際にそのサービスがどんな価値になるのか、クライアント企業様にとってどのような課題が解決できるのかについては、私たちもまだ手探りで探している状態といいますか…。」

山家:「データを貯めれば何かに使えると思われがちですが、議論すべきは『このデータをどう活用すべきか』です。データを活用してどの課題を解決していくのかについては、私たちも常に頭を悩ませています。難易度の高いテーマですよね。」

元垣内:「本質的なところに時間を割かず、足回りだけに時間を使うのは、本当にもったいないことです。ですので、スマートドライブとしては、モビリティデータの価値をいち早く多くの方々が見つけられるような仕組みづくりをしていきたいと思っています。そして、その先にあるのが『データを活用してどのようなビジネスを作ることができるか』です。

BCGDVとしては、新規事業を成功に導くためのフレームワークを持っていたりするのでしょうか。」

山家:「前編で紹介した『FarePilot』の場合、本格的な開発に入る前に、データを集めてホットスポットを分析し、ビジネスとして成立するか否かを見分けました。開発前の段階で予測モデルをいくつか作って検証するということを何度も繰り返す感じです。フレームワークというよりは、迅速にPDCAを回すことを心がけています。インターネット企業がサービスを改善するのと同じように、ある程度行けそうだとわかったら、サービスの開発に着手しています。」

元垣内:「まずはプロトタイプを作って、試して、改善してという方法で回していくと。」

山家:「BCGDVだけで足りない場合は、BCG内の別の組織にデータサイエンティストのチームがあるのでフォローをしてもらいます。そうやって、自分たちがやるべきこと・できることに集中するのも大事なことです。」

元垣内:「近年、デジタルトランスフォーメーションを推進する流れが多くの企業で見られます。そういう側面からクライアントにご相談を受けることはございますか?」

山家:「デジタルトランスフォーメーションは、仕事の仕方や評価体系を変えるといった話から、デジタルツールを導入して情報を一気通貫させるところまで、各企業、いろんな側面から取り組んでいらっしゃいます。

BCGDVとしては、各社におけるデジタルトランスフォーメーション全体の取り組みの中で、その推進力向上に貢献できればと思っています。今まで経験した仕事の仕方や事業とは少し違うけれども、働き方を変えたり、積極的に新規事業を立ち上げたりすることで、先進的な企業へと変わっていきますよ、というように。」

元垣内:「つまり、先進的なパイロットプロジェクトというイメージでしょうか。実際に、そういった取り組みは事例としてありましたか。」

山家:「そういう位置づけでご相談される企業様は多いですね。全社的にデジタルトランスフォーメーションを掲げつつ、具体的な取り組みの中で、パイロット的なものとしてBCGDVのプロジェクトが位置づけられているケースが多いかもしれません。

BCGDVの働き方は、典型的な大企業とは異なりますので、まずはこの働き方を体験していただき、サービスが形になっていく過程や働き方を経験する中で新たな刺激を感じて欲しいですね。

デジタルトランスフォーメーションの全体像を作って推進していくのは、BCGが得意な分野だと思います」

新規事業が成功するパターンとは?

元垣内:「ご経験の中で、新規事業が成功するパターン、たとえば『こうするとうまくいく』というパターンはあったりするのでしょうか。」

山家:「今までの経験から言うと、実際にサービスを作って、ユーザーに利用してもらってから、ビジネスにするかしないかを判断する流れだとスムーズに進む印象です。逆に、非常に精緻な計画を立てようとすると、進行スピードが鈍化し、前進しづらくなります。とくにデジタルサービスは実際にユーザーに触ってもらわないと、うまくいく・いかないの判断が難しい事が多いです。ですので、大量に紙の事業計画を作るのではなく、素早くサービスを作って、修正点を改善するというアプローチ取るようにしています。」

元垣内:「その通りですね。私たちスマートドライブでもモビリティデータを活用したAI開発に着手していますが、AI解析やデータ解析は実際にやってみないとわからないこともたくさんあります。

ビッグデータを活用したサービスの開発を進めるには、しっかりと計画を練りこんだウォーターフォール型では間に合いません。2018年に経済産業省が策定した『AI・データの利用に関する契約ガイドライン』でも、スピード感を重視した探索的段階型の開発計画が提唱されていますし、ご一緒するクライアント企業様には段階的に、少しずつ形にしていくという提案をしています。」

山家:「サービスを検証するために必ずしもモノを作る必要はないんです。既存の何かをうまく活用してユーザーに触ってもらうだけでも、十分に感触が掴めたりしますので。お互いに合意してサクサクと進めることができれば、成功する可能性はぐんと上がるはずです。」

元垣内:「BCGDVの持つスピード感や具体的なアウトプットと、BCGのコンサルティングならではの強みの両方を持ち合わせているので、クライアント企業にとっても納得感が高いということでしょうか。」

山家:「BCGDVの進行に納得していただけるケースは多いですね。どのクライアントにも共通するのは、たくさんの資料よりプロトタイプを見たいと言うところです。私たちがいかにうまく短期間で持っていくかを常に考えて行動していることもあります。

基本的に、私たちが考えるプロジェクトはイノベーション、インキューベーション、コマーシャライゼーションという三段階で構成されています。それぞれ、イノベーションはアイデアを出して企画すること、インキューベーションは制作すること、コマーシャライゼーションはグロースさせることで、一気通貫で関わるようにしているのです。中には、企画だけ携わるプロジェクトもありますが、私たちとしては最初から最後まで責任を持って担いたいですね。もちろん、その体勢は整っていますし。」

元垣内:「すべてを一社でお任せできるところはそんなに多くありませんし、いま一番、求められていることだと思います。」

山家:「段階ごとに人や企業が変わると、関係性を0から構築しなくてはなりませんし、コミュニケーションが多く発生することになりますので、どこかで行き違いが発生してしまう。だから、なるべく同じ人が担当した方がスムーズなんです。」

元垣内:「責任も負いますので、本当に良いものを素早く作ることができますよね。」

元垣内:「最後に、スマートドライブへのご意見やご要望を頂戴できますか?」

山家:「BtoC向けのSmartDrive FamiliesもBtoB向けのSmartDrive Fleetも、非常に洗練されたユーザーエクスペリエンス(UX)が素晴らしいですよね。一般的なBtoB向けのサービスは、開発コストの低減や不具合を出さないことの優先度が高くなりすぎて、UXが劣ってしまうケースが少なくありません。だからこそ、より一層良さが際立っているんじゃないかと思っています。

その理由の一つには、BtoC向けのサービスを提供していることもあるんじゃないでしょうか。そこから得た気づきやポイントをBtoB向けのサービスにも反映させることもできますしね。今後も洗練されたUXを維持し続けてほしいです。

管理画面を最初に見たときに思ったのが、『すごくカッコいい』。シンプルで使いやすいのにデザインはスマート。そこにはスマートドライブの信念や強いこだわりを感じます。」

元垣内:「UXに関してはスマートドライブが全社的に注力をしているところです。そもそも、一人目の社員はアメリカ出身のデザイナーですし、最初からデザインとUXを中心にサービスを形にしてきたところが起点にもなっています。

そして、山家さんがおっしゃった通り、to C向けとto B向けのサービス両方を提供しているのは、それぞれで培ったUIやUXの使い心地を当てはめて、どちらにも良いサイクルを生み出していきたいという考えからです。

また、車両管理サービスは、パソコンに慣れてない方も使いますし、経営層や管理者、ドライバーなど、幅広いユーザーに合わせたデザインにしないと定着していきません。」

山家:「運行管理システムは使う人のリテラシーもかなり開きがあると思いますので、難易度が高いですよね。」

元垣内:「管理ツール自体がそもそも面倒くさいものだと思われがちなので、まずはその考えを拭い去るために、簡単に管理できるということをデザインや使いやすさで伝えていかなくてはなりません。そうして、利用する人たちが本来の仕事に集中できる環境を作りたいと考えています。

デジタルトランスフォーメーションの枠組みでのご活用始め、モビリティデータの活用価値の創出を後押ししていくためにも、私たちも提供するサービスや開発により一層、磨きをかけていきたいと思います。ありがとうございました!!」

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