【対談】中の移動と外の移動を可視化することで何が変わるのか?

【対談】中の移動と外の移動を可視化することで何が変わるのか?

スマートロック「Akerun」を手掛ける株式会社フォトシンス 代表取締役社長 河瀬 航大さまへお話を伺いました

インタビュイー: 株式会社フォトシンス 代表取締役社長 河瀬 航大さま

Akerunが誕生した背景

北川:まずは河瀬さんのご略歴と事業についてお伺いできますか?

河瀬:株式会社フォトシンスの代表取締役社長を務める河瀬です。

私はもともと、理系の大学で放射線を専門に学んでいましたが、初めて勤めたのはGaiax(ガイアックス)というIT企業でした。そこでは3年半ほどソーシャルメディアマーケティングの領域で新規事業をいくつか立ち上げるという経験を積み、25歳の時にフォトシンスを起業します。

弊社はスマートロックを活用した「Akerun入退室管理システム」(以下、Akerun)を開発・提供している会社です。Akerunは、既存の扉にペタッと貼り付けるだけでインターネットにつながるという、鍵をIoT化するサービスです。既存のドアに後付けできるデバイスで、これを取り付ければスマホやICカードで解鍵できますし、入退室の履歴をクラウド上で確認することができますので、クラウド型の入退室管理システムとして法人企業に特化した形で提供させていただいております。100%法人向けにしている理由は、企業の方が多くの人が出入りしますし、「履歴を確認したい」と言うニーズが強いためです。

北川:なぜ、「スマートロック」という領域に着目されたのでしょうか?

河瀬本当に、他愛もない会話がきっかけだったんです。友達と4人で飲んでいた時に、「鍵って本当に不便だよね」という話しで盛り上がりまして。たとえば、鍵を落としてしまったり、誰かに鍵を渡すのが面倒だったりするシーンってありませんか? そこで、いつも持ち歩いているスマホで開け閉めできたり、権限が発行できたりすればなくす必要もないし管理も楽になるだろうと。

そこでまずはプロトタイプを作って、自分たちの家で試してみたのです。このプロトタイプはシンプルに、サムターンという形式の鍵を90度回すだけのもの。そうやって仲間うちだけでものづくりをしていたら、たまたま日本経済新聞の記者さんとご縁があり、紙面に取り上げていただく機会を得て。当時はまだスマートロックという言葉もなく、概念的には非常に目新しいものでしたので、さまざまな企業から「出資したい」「事業提携したい」「購入したい」など、想定以上の反響をいただき、本気でやってみようと起業を決意しました。

北川:その時の飲み会メンバーで創業されたのでしょうか?

河瀬:創業メンバー6名のうち、当時の飲み会メンバー4人が参画しています。私と、パナソニックでものづくりをしていたメンバー、当時ソフトバンクで働いていて通信に詳しいメンバー、エンジニアでマーケティングもできるメンバー。この4人なら絶対に何かできるはずだという期待しかありませんでしたね。ただ、足りないスキルセットがありましたので、同僚2人に声をかけて最終的には6名で起業しました。

中の移動を可視化することで労務管理をスムーズに

北川:事業についてもう少し詳しく聞かせてください。

私たちは一人ひとりのドライバーの移動データを取得できる車両管理ツールを提供していますが、経営陣や総務の方は労務管理や安全管理を目的にデータを取りたいと思っていても、社員からそんなに細かい行動データを取られるのは嫌だと言われる場合もあります。御社ではそういったケースはございますか?

河瀬ほとんどありませんね。入退室のデータを活用して、従業員へのベネフィットがあるかどうかを見られていますので、そうしたハレーションは起きないようです。

私たちの商品は、誰が、いつ出入りしたかという情報がすべてクラウドに上がり、その情報は勤怠管理システムとも連携可能です。そのためAkerunを導入し、勤怠管理と連携いただければ、ある日の最初にタッチした時間を出社時間とみなし、最後にタッチした時間を退出時間とみなしますので、ご自身での細かな勤怠管理が不要となるのです。

直行直帰の場合は別途入力が必要となりますが、8割はこのシステムで完了しますので、月末処理の負担を大幅に軽減できる。そういう点では従業員の方にとってもメリットの方が大きいのではないでしょうか。

北川:管理=無駄なコストを減らすことに目が向きがちですが、御社ではデータを使って業務効率を上げるというような「プラスα」を生み出す構想もあるのでしょうか?

河瀬現時点ではまだプラスαの領域まで対応できていませんが、将来的には、データを活用して、例えば会議室の効率化を実現したいと考えています。よく予約時間と実際の退室時間が異なることってありませんか。本当は30分で終わるミーティングでも来客時は余裕を持って1時間予約されていることが多い。そうした理由も含めてどの会社も会議室不足という話を伺いますので、データを活用すれば会議室の運用をもっとスマートにできないかと。

北川:経営者目線で見ていると、成果を出している人は朝早く出社して早めに退社するなど、働き方にある程度規則性があるようにも思います。そういう観点では、成果と勤怠が連動しているところあるかもしれません。

河瀬私自身は、微妙な変化に気づくことが大事だと思っています。

普段は定時が10時であるにも関わらず、9時に出社している人がいるとしましょう。その人があるタイミングから9時5分に来るようになった。この5分は何でもない数字のように見えるかもしれませんが、いつもきっちりと時間を守って出社していた人がイレギュラーになる時って、何か原因があるはずなんです。その些細な変化に気づくことが本当に重要で。

小さな情報を吸い上げて日々の機微を読み取ることは、将来的にも非常に価値があることだと思います。他にも、内勤で普段は昼休憩を社内で取っていた人が、ランチ外出が増えた時は転職のサインとか。小さな気づきは労務管理をするうえでも重要なポイントです。

北川:私たちは基本的に外の移動データを取っていますが、御社の場合は、社内の移動データを取ってらっしゃいます。外と中のどうデータを組み合わせることで、より確実な労務管理が可能になるのではないかと。本当に外で営業しているのか、朝は遅刻せずに出社しているのかなど、従業員の移動情報は会社のパフォーマンスにも影響することですし。

河瀬:ただ、それだと中には四六時中監視されているみたいだと嫌悪感を示す従業員もいそうですね。

北川:勤務態度が普段から真面目な方ならいいのですが、そういう方ばかりではありませんしね。しかし外と中のデータを組み合わせることで確実な労務管理が可能になりますし、経費精算や直行直帰の出退勤も自動化できれば、管理者と従業員の負担を軽減できますし、適正な評価を下すこともできるでしょう。

外のデータと中のデータを掛け合わせて

北川:ここからは、内外データの掛け合わせアイデアをブレストできればと思います。たとえば、業務の効率化という文脈で、社外の情報がプロダクトに活かせるシーンはあるでしょうか?

河瀬:少し文脈は変わりますが、Akerunは社員の入退室以外にも、誰がどこにいるといった情報が取得できますので、「このビルは、この時間帯に来客が多い」「このビルは他のビルと比べて人が多い」など、人の動きや人口密度を把握することができます。このような人の移動情報を元に、次の打ち合わせへ向かおうとするときに、タクシーがタイミング良くビルの入り口まで来てくれると、移動がよりスムーズになって助かりますよね。

あとは、ビルとビルの人の移動。たとえば、最近新たにビルが建って、人の流れが変わってきたことを可視化できれば、バスの巡回ルートやシェアサイクルのサイクルスポットを人の移動に即した形で変更できるかもしれません。

北川:面白いですね。私たちは倉庫向けに移動のデータから混雑を予測し、混雑緩和を促すソリューションも提供しています。物流施設は倉庫内の渋滞が30分や1時間も発生しますので、それによって作業が遅れたり、ドライバーの負担が増えたり、効率が一気に鈍化してしまうのです。

そこに人の移動、ビルの動態情報を組み合わせれば、「14時は混雑する時間帯だから時間を変更しよう」「打ち合わせを30分で終わらせれば、満員電車に乗らなくてすむ」と、さらに混雑を分散できるのではないでしょうか?

河瀬:たしかに。弊社メンバーは、10時~19時に働く人が多いのですが、この時間帯を変えるか変えないか、社内で話し合っている最中で。9時だと他社とも通勤時間が重なり、満員電車に乗り合わせなくてはならないので、9時30分を出社時間にしようという案が出ました。しかし、それだとあまり変わらないんじゃないか、いっそのこと8時にしてはどうかというように議論が加熱し、結局、何が正しいのかわからないという結論に。

本当に最適化させるのであれば、社員一人ひとりの通行ルートは何時が一番適切なのかを考えなくてはなりません。

北川:たとえばAkerunで、出勤時に社内が混雑する時間を分析して、少しずつ最適化していくのはどうでしょう。8時30分が一番混雑する時間帯なのであれば、「9時までアポイントメントは全て直行する」というルールを決めるとか。そうやって柔軟に移動ができれば、効率も上がるでしょうし、直行しているかどうかは、スマートドライブのデバイスでも確認できますし。

河瀬行動の可視化は大事ですね。最近では大企業でもリモートワークを推奨したり、コワーキングスペースを利用できるようにしたり、働き方が全体的にフレキシブルになってきました。実際に、コワーキングスペースにいる=出社とみなされている会社もありますので、そこにAkerunを取り付けて勤怠を管理することも可能です。しかし、リモートワークだと本当に働いているのかが見えづらい部分があるので、現在でも懐疑的な企業も少なくはありません。

北川:働く場所がオフィスと限定されていなくてもシェアオフィスに後付けできるのであれば勤怠管理もしっかり行えますね。

河瀬:シェアオフィスでもAkerunは活用いただいていますが、社内と社外施設の連携はまだできていませんので、将来的には広げていきたいですね。

北川:後付けという点では、スマートドライブの「SmartDrive Fleet」も同じですし、APIで連携も可能です。お客さんのターゲット層も近いですし、一緒にソリューション開発したり、営業を連携したりできそうです。

河瀬:同時期に地方拠点を構えてますしね。大阪のWeWorkに。地方は、まだまだポテンシャルを引き出せるはず。

意識が高いお客さまはすでに強固なセキュリティを設置されていますので、私たちのターゲットはセキュリティの意識をこれから高めていきたい方たちです。個人情報保護法の改正や働き方改革関連法ができたことで、慌てて勤怠管理の徹底をはじめる企業も多く見受けられますし、地方や中小企業ではそういう点でも関心が高まっていますので、注力していきたいと思っています。大阪では実際に効果も出ています。

都心と地方のマーケティング

北川:地方のマーケティングは都心とは違う手法でなされているのでしょうか?

河瀬基本的には変わりませんが、展示会やDM、ポスティングなど、オフライン比率を高めています。

北川:都心と地方でニーズの違いはありますか。

河瀬都心は大企業が多く、地方は中小企業が多くなりますが、大企業と中小企業では求めるニーズが全く異なります。場所というよりは、ターゲットによってニーズが違うと言った方が正しいかもしれない。

大企業はセキュリティ意識が高く、労務や働き方改革に対してどのようにデータを活用すべきか、「プラスα」を求められます。中小企業はセキュリティのニーズが多い。

北川:地方では、セキュリティ意識を高めたい中小企業の方が直接問合わせてくるケースが多いですか?

河瀬:そうですね。従来であれば、電気錠や一括した入退室管理システムは、基本的にビルのオーナーさんに営業をかけて、関係性を構築して導入いただく流れに持っていくのですが、実際には専有部のテナント側のセキュリティはテナントが意思決定するもの。つまり、ビル全体のセキュリティと専有部のセキュリティは異なるものであり、責任分界点をあえて作るために、セキュリティをID連携させていないのです。そういう意味では、テナントの社長や総務の方からお問い合わせいただいて、直接やり取りできるのが私たちの強みですし、ベンチャー企業としては進めやすいところですね。

北川:第二弾の対談は大阪の担当者同士で、ってどうでしょう。地方だからこその成功事例や失敗談などをざっくばらんに話してもらうという。

河瀬:まずは都内のメンバーで勝ちパターンを見出して、それを地方で展開していきましょう。

Akerunが描く「キーレス社会」

北川:Akerunで今後実現したいのはどのような世界観でしょうか?

河瀬:将来的に描いている世界は鍵がない世界。私たちはキーレス社会と呼んでいますが、これを徹底的に広げていきたいし、実現させたいと考えています。シェアリングエコノミーが加速する中で、セキュリティカードや社員証、名刺など、本人のIDとなる鍵的なモノが増えています。ただ、どれも大事なものですがバラバラとしていると管理が大変ですし、万が一紛失すると大変なことになる。ですからそれらを1つに集約させて、すべての扉を開けられる世界を作っていきたいのです。

それを実現するには、オフィスからマンション、車に至るまで包括的に取り組まなくてはなりませんが、現在、注力しているのはオフィス。オフィスは1箇所に導入するだけで多くのIDが取得できます。コワーキングスペースやレンタルスタジオなど空間をシェアする場所で使っていただければネットワークの外部性が効くようになりますので、それを今後、家庭やMaaS領域に広げていければと考えています。

北川:私たちとしても非常にコラボレーションのしがいのあるお話です。

大企業では平日は営業車を使っていても週末は稼働しないものが多いので、使われていない期間は従業員や地域の人に車を貸し出そうという案が出ているんです。遊休資産を効率的に利用できないかという。スマートドライブのデータからは、車が利用されない日が明確にわかりますので、企業と個人のカーシェアリングも可能です。

河瀬:土日のお出かけでカーシェアリングを利用しようと思っても、意外と予約で埋まっていることが多いですからね。

北川:少し使用感があるから半額以下で貸し出すとか。そうなると需要も増えそうです。

河瀬:荷物を運ぶなら、コンパクトカーよりもむしろ社用車のほうが使い勝手が良さそうですし。

Akerunでも、土日は利用しないから会議室を貸し出そうという話があがっています。今はパラレルな働き方ができる時代ですし、利用されていない時間は副業やイベントで活用いただくこともできるんじゃないかと。

私も創業した時は、週末によく前職のオフィスを利用させていただいていましたし、弊社でも社員に向けて夜はイベント利用、土日も自由に使えるようにしています。そうすることで、イノベーションが生まれる手助けができればいいなと思っているんです。ただ、ここでも鍵の権限や管理をどうするかを考えなくてはなりませんが。

北川:退勤した後は個人利用とみなして、カーシェアの料金をチャージして週末に使えるようにするとか。

河瀬車と場所を抑えればそれも可能ですね。

旅行に行くと車代、高速代、ホテル代などが発生しますが、2社が連携することでシームレスに予約と支払いが完了できそう。

北川:地方も含めてそんな世界観を作っていきたいです。

河瀬:ホテルも最近は1泊の値段ではなく、何時間利用でいくらの従量課金が増えているようです。これは自動車と同じ考え方で、使ったぶんだけ支払うことが一般化しつつある。そうなるとデータと決済の連携は極めて重要になります。

北川:そうやって固定費がほぼ0になれば会社としてもありがたいですね。

以前、お客さんとシミュレーションをしたのですが、リース料金が月4万円でも、空いた時間に貸出すことで2万5,000円くらい収益が出る。つまり、実質1万5,000円で車を所有できるということです。それがオフィスでも可能になればいいですよね。

河瀬会議室も所有する時代ではなくなってきていますし、実現できると思いますよ。できれば、ビルごとに会議室があるとか、どの会社も自由に使えるスペースがあるとか、専有部はすべて執務室してしまうとか。そうなると、誰もが従量課金で自由に使えるといいなって思います。そういう意味では今後はオフィス設計にも挑戦してみたいですね。

北川:当然クラウドで管理されているからAPIもありますし、さまざまなものと連携できそうです。

河瀬それに、Akerunはスピーカーが付いているので喋りますから、取得した情報をもとに注意を促すこともできます。普段から喋る設定にしてはいませんが、電池が切れそうな時などはアラートを出してくれるんです。たとえば、APIの連携で天気がわかれば、外出時に「雨が降っています」という“あれば嬉しい”助言もできてしまう。

北川:「雨が降りそうなので傘を持っていきましょう」とか。

河瀬:そうそう。それに、仕事の進捗が遅い人に対しては外出時に「進捗はどうですか?」とやんわり話しかけて気づかせることも可能です。いくつか会話を収録していますので、今だって実際に使うことができますし。

Akerunは中の空間と外の空間を分ける部分に位置するので、サポートや気づきを与えるコミュニケーションができる。扉を出た瞬間に「次の電車まで、あと何分です」と言われたら、少し急ごうって思いますよね。

Googleカレンダーと連携させれば次に移動する場所が分かるので、「あと何分でバスが到着します」「電車が遅れているのでゆっくり歩いても大丈夫です」「タクシーがあと何秒で通り過ぎますので、少し早めに出たほうがいいですよ」とか、的確なアシストもできます。そういうサジェスト(示唆)があれば、入口と中と外の会話という観点で密な連携ができるかもしれません。

北川:ぜひ、一緒に実現しましょう! 

河瀬:夢は広がりますが、マネタイズの方法も考えないとね。

北川:その後の話はいつか第二弾でやりましょう。

既存産業に風穴を

北川:最後に、スマートドライブへ一言いただけますか?こんなデータもあればいいのにとか、もっとこういう領域も手がけて欲しいとか、どんなことでも構いません。

河瀬データを引き出すとか、後付けのデバイスと聞くと、車をハックするようなイメージを受ける方もいますし、技術はあってもそのぶん導入にはハードルが多いのではないかと思うんです。そこは私たちも苦労をしている部分ですので…。とくに車は規制が多い領域ですが、既存産業の重たい扉をこじ開けて新たな風を吹かせて欲しい。スマートドライブは確かな運転データを取得できるのが強み。リスクもあるでしょうが、データをもとにベネフィットがあることをロジカルな説明によってきっと証明できるはずです。

電動スクーターも今後、普及して欲しいですし。データドリブンで説明できることで、古い産業に風穴を開けるような、そういう存在にお互いなっていきましょう。

北川:乗り物はSmartDrive、オフィスはAkerunが前例を作って、規制改革や規制緩和を進めていきたいですね。

河瀬:私たちのようなIoTは、既存産業のうえで成り立たせていただているものなので、うまく関係性を構築して、徐々に世の中の規制を含めて前向きに変えていくかが重要です。お互いに成功事例を作りながら着実に進んでいきましょう。

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