アカデミック・パネルディスカッション

Speakers

佐藤 典仁
佐藤 典仁
弁護士
森・濱田松本法律事務所
北川 烈
北川 烈
代表取締役社長
株式会社スマートドライブ
野辺 継男
野辺 継男
事業開発・政策推進ダイレクタ 兼 チーフサービスアーキテクト
インテル株式会社

Summary

MaaSやCASE、自動運転の実用化、新たなモビリティサービスなど、未来へ向けてさまざまなモビリティ社会が描かれていますが、それと同時に「本当にそんな未来は実現するのか」「法規制はどこまで進んでいるのか」という声が上がっているのも事実です。現在地の状況と実際に起こりえる未来から課題を洗い出し、現実的な視点でモビリティの未来を考えていきましょう。

野辺様と佐藤様のご紹介

北川:まずは、お二人の自己紹介をお願いいたします。

野辺:1983年、NECに入社してパソコン事業に携わっていました。その後、ソフトバンクがADSLでブロードバンドを立ち上げるタイミングで入り、オンラインゲームの子会社のCEOに就任しインターネットを学びます。それから2004年、日産自動車に入り、車にITを導入しデータセンターにつなげるコネクテッドビークルの開発と事業化に8年間携わりました。
そして2012年、日産からインテルへ。ちょうどディープラーニングが実効性を示した頃で、コネクテッドビークルにディープラーニングを導入し、自動運転の開発や政策推進を担当しています。また、2014年からは名古屋大学の客員准教授を兼務し、技術的なリサーチや研究をしています。

佐藤:森・濱田松本法律事務所で弁護士をしている佐藤と申します。
私は10数年弁護士として、国内外のM&A案件を中心に担当してきました。途中、海外留学やドイツの法律事務所勤務を経験し、帰国後は日立製作所に出向、直近では国土交通省の自動車局へ出向して法改正などに携わっておりました。
国土交通省に出向するきっかけとなったのが、この数年間自動運転や新しい技術に対する関心が高まってきたこと。国としても2020年にレベル3を実現する目標に向けて法改正を進めていた最中、出向の機会を得て法改正などに携わらせていただきました。7月からは事務所に戻り、引き続きM&Aや自動車関係、モビリティサービス全般の法律相談等を担当しています。

2050年、現実的なモビリティ社会を考える

北川:早速ですが、ここからは具体的に30〜40年後のモビリティ社会や人々の移動がどのように進化するか、ご意見やお考えをお話しいただきたいと思います。まずは野辺さまから。

野辺:例えば30年後のイメージはこうですとここで言っても、それは多分間違った絵をお見せする事になるのは必然です。重要なのは、底流を流れる技術をちゃんと理解し、あらゆる事象の関連性を理解し、ニーズの変化を把握しながら、次に何が起こるかフレキシブルに考え実現していくことです。但し、どの程度変わり得るのかを理解する事は重要ですので、一度30年〜40年前を遡ってみたいと思います。30年前は1990年、40年前は1980年。パッと見て、変化がわかり易いのは鉄道です。

1981年(40年前)
1981年の渋谷の駅では車掌さんが改札口で立ち、利用者は切符を購入してホームへ向かっています。
1991年(30年前)
イオカードという磁気式のプリペイド乗車カードが誕生。直接通すだけで運賃が自動的に精算されるので、改札をよりスムーズに通り抜けられるようになりました。
2000年(20年前)
2000年に入ると、さらに利便性が高いFelica、Suica、ICOCAなどのICカードが出て、イオカードを一気に置き換えます。

こうして、切符、イオカード、ICカードと、鉄道の改札は段階を経て進化を遂げてきました。ここで重要な着眼点は、ヒトは少しでも楽な方法あれば、そちらに一気に移行するということです。30-40年経つとこうして大きな変化が起こり得るという認識を持った上で、電車から車に視点を変え、30年先の2050年のモビリティはどう変わるのかを考察したいと思います。車のICT化は、鉄道に例えるとICカードへの移行に似ています。イオカードでは個人のIDを管理できませんでしたが、ICカードはIDが取得できるので、人の移動が把握できます。つまり、日常的にどこにどのような人の流れがあるのか分析することができるのです。車も2000年以降、携帯通信ネットワークを介しコネクテッドになり、車の移動状況を分析出来る様になりました。これが今後のモビリティの世界を占う起点になります。
1907年、ヘンリー・フォードが、農民を含み誰もが乗れる安価な車を作ろうとT型フォードを大量生産し、車が生活の中へと広がっていきます。運転をするという視点では車と人間の関係は1970年まで大きく変化せず、その後、2000年ぐらいまで徐々に半導体が車に搭載されるようになり、人間の運転を支援する2つの大きな進化を遂げました。

1つはコネクテッドビークル。2000年、既に日本ではカーナビゲーション(以下カーナビ)が広く浸透しており、更に世界に先駆け携帯電話でデータ通信やインターネット接続が可能になっていました。これがいわゆるガラパゴス携帯、“ガラケー”です。日本で浸透していたガラケーとカーナビをつなげることで、データセンターで車の位置情報を分析して渋滞状況を把握したり、ワイパーの動きを読み取ってゲリラ豪雨を検知したりといった”情報”を生成し、カーナビにフィードバックする事で、渋滞や事故を回避する最適なルート案内が可能になったのです。

もう1つは、1990年以降標準化が進んだECU (エンジンコントロールユニット、あるいはエレクトリックコントロールユニット)が、2000年には車に大量に搭載され、人間の運転操作の足りない部分を補って安全性を高めました。ECUの例として、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が挙げられ、これは人間がブレーキを踏み続けるとスリップしてしまうところを、電子制御を用いてメカニカルにブレーキを解除して制動し、安全な操作を可能にするものです。こうしたECUが大量に車に搭載された結果、車の安全性が高度化し、2010年頃には世界中で事故原因の約95%は人間の認識・判断・操作ミスといわれ、ドライバー側に問題があるという状況になりました。
更に2010年を前後し、車の外で極めて大きな変化が起こります。世界中でスマートフォン(以下、スマホ)が一気に普及したことです。2008年末にiPhoneが3G化されAndroid Phoneも出荷され、2015年にはAndroidとiPhoneで計年間10億台、最近では年間17億台も生産される程、急激に拡大しました。そうしたスマホの普及の結果、スマホに向けた数多くのサービスがクラウド上で生まれました。それらのサービスを組み合わせ一度スマホで受け、ディスプレイオーディオやカーナビに写せば、車でも最新情報を受け取れるようになったのです。

私たちの現在地は2015年から2020年。ご存知のように車にカメラやレーダーが搭載されるようになり、白線を感知してはみ出さないようにしたり、前の車との適切な車間距離を維持したり、障害物があれば停止するなど、車自身が外の環境を把握し、より高度な安全走行が可能になりました。更にECUからのデータの一部をスマホを経由してデータセンターに送り、分析することで走行状況を把握し、地球上のどの道路がどんな状況か分析され、車にフィードバックし、安全性を更に高める事が既に可能です。そして、走行環境と走行状態が判れば、この道路はこの様に走れば安全だという事を学習できるようになりました。そうして大量のデータを集めデータセンターでディープラーニングすれば人間の代わりに車を運転するソフトウエアが生成され、そのソフトウエアをダウンロードして車載コンピュータが人間の代わりに運転するようになる…すべての車がそうなる訳ではありませんが、2020年以降から一部でそのような車が誕生する状況です。

この先、車が一部自動運転または完全自動運転になるとともに社会はどう変わるのか。これがMaaSの拡大につながっていきます。本質的に、MaaSは乗りたい人と乗せたい人をSNS的な手法でマッチメイキングするもの。ユーザーとドライバーをデータセンターで、利用情報に基づき、組み合わせを最適化し結び付ければ良い。こうしてSNSと車輛の管理を行うFMS(フリート・マネージメント・システム)をつなげたものがある意味、Uberであり、初期段階のMaaSの代表例だと言えるでしょう。
ここでドライバーの一部は自動運転車に変わり、スマホ経由でデータセンターが鉄道やバス、電動自転車、スクーター等の現在地を把握し、ユーザの移動要求に対して、最も安い、最も早い、最も快適といった移動の組み合わせの選択肢をスマホに提示し、ユーザはそこから選ぶだけでスムーズに移動可能になります。世界的にみると、今後は車がEVに変わっていき、今後の再生可能エネルギーの世界においては蓄電池にもなる。モビリティサービスを提供するデータセンターでは、人、物、そしてエネルギーの移動を把握できるようになり、それが今後の都市計画の最適化にも繋がります。

2050年までを考えると、コンピュータの発達が大きなキーポイントになります。それを具体的に予測しているのがテクノロジー・シンギュラリティの提唱者の一人であり、現在Alphabetに居るレイ・カーツワイル氏です。彼の示した図では、2045年に1000ドルのコンピュータが全人類の脳の計算力の総和を超えると指摘しています。彼の示す図の上では、たまたまですが、1964年と2020年の2つの東京オリンピックの間で、コンピュータの計算能力は2年で2倍ずつ伸びています。更に彼の図ではその後更に加速的に伸びる事が示されています。私の分析ではその速度を実現するには毎年2倍の成長が必要ですが、半導体の物理限界から現実的にはむしろそれは困難になります。しかし更に解釈を加えるとすれば、すべての端末がクラウドにつながる事で計算を分散させ、見かけ上それが可能になります。重要なのは、手元の1000ドルのコンピュータに注目するのではなく、2010年以降は人間の脳の計算能力を超える処理能力(半導体数とソフトウエア)がクラウドの中に存在しているという認識が重要です。

そうした背景もあり、2012年頃からディープラーニングの実効性が示され、既に現時点でも1000ドルのコンピュータ、あるいはスマホを介して人間の計算能力や、人間の画像認識能力等を超える結果を享受できるようになっています。2050年には1000ドルのデバイスはコンピュータやスマホの姿ではなく、もっと小さな端末に置き換えられているかもしれません。表示はホログラム等を利用し、視線を変えても空間中に映像が浮かぶ様なヒューマンインタフェースも出来ると思います。いずれにしても全人類の計算能力を超えるコンピュータ能力をもつデバイス(“スマホ”)を誰もが手元にもつ時代がくるということは想像に難くありません。

未来の”スマホ”を持ち、人々が各々に移動する状況を考えた時、手元の”スマホ”上でその日のスケジュールや天候や、突然の交通の変更等に合わせて最適な移動開始時間や移動手段が提示され、ボタン一つで移動手段を選択し、スムーズに移動ができ、それがまた社会全体で最適化される。ほぼ全ての人が、任意のA地点からB地点まで行くのに、より安く・早く・快適に移動できるようになるでしょう。また、そうした移動の結果がクラウドを更に賢くします。

人口の多い中国などの場合は、シェアリングサービスの配車等で量子コンピュータの計算能力が必要になってきますし、シェアリンングカーの利用権利を移譲する際にはブロックチェーンなどの技術が必要になるかもしれません。そうした技術は、データ数としての人口が少ない日本では進まないかもしれないという危惧もあります。当面の間、より多くの計算処理するのはクラウドですが、ユーザーインターフェースは基本的に”スマホ”。さらに言えば、”スマホ”がハブとなり多くの人達からデータを集め、クラウドであらゆる場所の環境や運転の仕方を学習し、それを受け取った”スマホ”が車を運転するような事が2050年には起こるかもしれない。”スマホ”を持ち歩いていれば、移動スケジュールも最適化され、持っているだけで自動運転が学習され、”スマホ”が車に命令を下し目的地まで連れて行ってくれるようになる。それが2050年の社会に向けて起こりうると考えられます。一言で言えば、「”スマホ”が車を運転する様になる」ということでしょうか。

北川:ありがとうございます。次は、このような世界が実現するにあたって、佐藤弁護士に法的な論点でお話いただきたいと思います。

佐藤:市場化が迫る自動運転の現在地という切り口でお話させていただきます。
自動運転を実現するにあたって、大きく3つ検討すべきことがあります。1つ目は安全の確保で、自動運転車の満たすべき安全性とは何かについて。2つ目が交通ルールの在り方。現在はドライバーさんが道路交通法を遵守して運転操作をされていますが、自動運転では誰が・どのように安全を確保するのか、ドライバーの義務についても検討が必要です。また、そもそも免許が不要になるのではないか、タクシーやバスの二種免許も不要になるのではないかも論点になります。3つ目が民事責任と刑事責任です。先ほど申し上げたように、ドライバーの不在や義務の内容が変わる中で誰がどのような責任を持つべきかを考えなくてはなりません。
ここからは具体的に3つの内容について解説します。

1. 安全確保
国土交通省が自動車の安全等を所管しており、2018年に「自動運転車の安全技術ガイドライン」を出しています。
現時点では具体的かつ細かい基準は設けられていませんが、「ODDと呼ばれる自動運転車が安全に運行できるとされる運行設定領域では、自動運転システムが引き起こす人身事故であって、合理的に予見される防止可能な事故が生じないこと」が自動運転車の車両安全の定義として定められています。その後、道路運送車両法という自動車の安全に係る法律を改正し、これを以て安全性を担保しつつ自動運転車を日本に投入できるという状態になっています。
これは自動運転レベル3、4の世界の話ですが、今後の課題は、自動運転システムの安全性の検証方法など、細かい基準を詰めていくことです。

2.交通ルールの在り方
今年の5月に改正道路交通法が成立し、自動運転レベル3が公道を走行する際のルールが定められました。レベル3は、ドライバーが車内にいて、尚且つ自動運転システムから要請があればドライバーが操作を行わなくてはなりません。要請があるまでは、車中のインフォメーション端末で映画を観ることもできますが、そのようなレベル3の自動運転中の運転者の義務はどうなるのかが今回の法改正で明示されました。改正法では、自動運転車に乗っている人は引き続きドライバーであり、道交法上のすべての義務を負うことになりますので、理論上は周りを見ながら安全に運転しなければなりませんし、責任もそのドライバーが負うことになります。
ならば、自動運転をどう認めるのか。ODD内で、一定の条件を満たせば画面を注視して映画を観るなど限定的において自動運転の機能を使って良いとされました。他方で、自動運転中のスピード違反などの道交法違反が起きた際、ドライバーが責任を負うかについては、事案ごとに考えていくとしか示されていません。自動運転システムを適切に使っていただけのドライバーにも違反切符が切られる可能性が残されたままですので、どのような場合にユーザーの過失がないといえるのかは明確にされるべきです。また、レベル4、5の対応についてもどう改正すべきかが、引き続き検討すべきポイントです。
運転免許については、今回改正されませんでしたので、将来的に複数の自動運転車でサービスを展開したい企業やロボットタクシーの事業者では、遠隔監視のみをする人も考えられますが、そのような人も運転免許が必要か、についても引き続き検討すべきポイントです。

3.責任関係
民事責任:現行法では、車の所有者が運行供用者責任を負うとされています。自動車を所有されている方であれば、自賠責保険に入っていると思いますが、所有者が運行供用者責任を負い、自賠責保険が人身事故で発生した損害をカバーするというのが法的な立て付けです。自動運転の導入初期においては所有者の責任を維持していくことが明示されています。
今後は、所有者が民事責任を負い続けるのが正しいのかを検討する必要があります。所有者は車を持っていますが、運転そのものに積極的に関与しなくなる未来がやってくる中で、所有者に責任を追わせ続けるのが妥当と言えるでしょうか。また、現行の法体系ではレンタカーの利用者は所有者と同じく運行供用者責任を負うとされていますが、他方でタクシーの乗客はあくまで“乗客”であるため、運行供用者責任は負わないとされているのです。
つまり、ある人がA地点からB地点までスムーズな移動をしようとしたとき、配置されるのがロボットタクシーか、レンタカーかで責任の所在が変わってしまうことになりかねないということです。そもそも所有者責任という考え方をどう維持していくのかや、運送事業に関連する法律の考え方も論点になるところです。

刑事責任:道交法の話と同じで、ドライバーが運転操作から完全に解放されれば、過失の根拠となる注意義務がなくなるはずですが、そうするとドライバーは責任を負わないのでしょうか。自動車メーカーまたは自動運転車のサービスを市場に投入した人が責任を負うのでしょうか。この点についても検討していかなくてはなりません。過失の立証は、システムの複雑化とともに困難になると想定されます。もしかすると、刑事責任を誰も負わないケースもあるかもしれない。事故時の責任の所在に関しては、さらなる自動運転の進化を見据えて、今後も議論していく必要があると個人的には思っています。

技術面・法律面における日本と海外の違いとは

北川:ここからは、さらに切り込んだ質問をしていきたいと思います。まずは、日本と海外の違いについて。

日本は世界的に活躍する自動車メーカーが軒を連ねる一方で、モビリティのサービスやデータのプラットフォームを提供する企業がほとんどいません。ライドシェアができない、電動キックボードなどの新しいモビリティが公道を走れないなど、規制についても海外と比べると多い印象がありますが、海外と比較していかがでしょうか。

野辺:日本企業がプラットフォームを作り得るかという点を、開発面から考えると、現在の様に人間が運転すれば世界中どこでも動く車を造るのと違って、モビリティに対応するには車が文化的な違いを吸収しなければならないという課題が大きいと思います。

例えば道案内を例に文化的差異を見てみましょう。人に道を尋ねた時、日本人は地図を描いて教えますが、海外では基本的に紙にストリート名を文字で羅列するだけです。日本の住所は港区六本木6-6-6等、何丁目何番地のどこにあるかを点情報として伝えるわけですが、殆どの海外の住所はストリート上の何番めにあるかという線情報になっています。即ち、住所が二次元情報になっており、ストリート名を5つくらい覚えておけば、それをつなげて道案内になる。

そうした背景から、日本では道案内をする際、二次元情報である地図を用意し、自分の位置を点として地図上で正確に示し、その後どのような経路をすすみ目的地に辿り着くのか、線を描いて説明する。自分が車で移動する際、同じ事をカーナビで実現しなければいけない。その為には、地図を車の移動に合わせてスクロースし続け、道が逸れれば、経路を計算し直し続ける高度な計算能力を持つカーナビが必要でした。

一方で、アメリカでは「safety security」という課題の方が重要でした。人知れず雪の中でスタックし、ガソリンが無くなってそのまま亡くなられてしまう。広大な土地だからこそ起きる問題かもしれませんが、こうした事態が発生した時に、緊急車両がすぐ向かえるようにしようとITや通信技術が入り始めたのです。

このように、モビリティサービスを提供する際には、各国の文化の違いや、国や環境に依存する交通ルールや暗黙の了解と言ったところを、車やサービスが吸収して提供しなければなりません。これまで、車は日本で走れれば海外に持って行っても運転する人間が文化の違いを吸収するので、世界のどこでも走りました。今後、車が人間の運転を支援したり、サービスに組み込まれたりする場合、人間のやっていたことを車がカバーする必要があります。その文化的な違いは概ねソフトウェアで対応します。ところが、日本企業のソフトウェア開発能力は他国と比較して低いと言わざるを得ない。今後は各国の文化を吸収し、各国で受け入れられる車やサービスのプラットフォームを造らなければならない。この辺りが得意かどうかが、海外との違いと言えるのではないでしょうか。

北川:単純な技術の問題だけではなく、文化の問題もあるということですね。佐藤さんからは、規制や法律の面において、海外との違いを教えていただきたいと思います。

佐藤:日本は自動運転の法整備が遅れていると思われていますが、実はそんなことがないのです。
法改正自体は2020年の実用化に向けて行われましたが、世界に先駆けてレベル3の自動運転車を実際に走らせようと動いています。実証実験も高速道路などでフレキシブルに行われています。国交省にいたとき、海外の規制当局とも意見交換をしましたが、海外ではそこまで自由に実証実験ができないようです。中国では自由に実証実験ができるみたいなイメージをお持ちかもしれませんが、高速道路での実証実験も当時は認められていない状態で、日本の話をすると非常に驚かれていました。

北川:先入観で「きっと規制があって進んでいないだろう」と思いがちですが、意外にそうじゃないということですね。

新たな技術やモビリティサービス視点で見る、日本の経済状況の変化

北川:次の質問は、新たな技術やモビリティサービスが出る中で、自動車メーカーがどのように考え、動いているのか。
最近では、テスラが大手の自動車メーカーより時価総額が高くなったとか、Uberが自動車メーカーより高い時価総額で上場したとか、自動車メーカー以外の企業が伸長している話題が続々とニュースになっています。また、モビリティ関連のベンチャー企業が多額の資金を調達したり、企業同士が統廃合したりといった動きが加速しているように感じますが、そのあたりを弁護士としての視点、Biz的な視点でお話いただけますでしょうか。

佐藤:私自身もM&Aを数多く担当していますので、件数のデータを確認してみましたが、実際は件数的にも金額的にもそこまでは増えていないようでした。では何がイメージ的に増えたと感じさせているのか。その大きな理由は、CASEという単語に象徴されるように、自動車業界が新しい取り組みをしていかなくてはならない中でR&D(研究開発)への投資や新しい技術の導入を考え、合従連衡したり、新しいJV(ジョイントベンチャー)を作ったりするなど、従来とは質的に異なる案件が増えていることが関係していると思います。

ベンチャー投資でも、ストラテジックなメーカーによる投資が増えてきています。OEM同士の業務提携、直近ですとFCAとPSA、トヨタもスズキ、スバル、マツダなどと資本業務提携を結ばれていますし、ホンダ系のサプライヤー3社と日立のオートモーティブシステムズが合併するといった大規模な案件もありました。JVですと、トヨタとソフトバンクのMONETもそうですね。海外では、中国のBaiduが作っている自動運転のプラットフォームにヨーロッパのメーカーなどが参画していますし、自動運転の開発では、WaymoやGMが切り出したGM クルーズが、それぞれ時価総額1兆円を超えていると言われています。

技術を獲得するための出資、共同研究開発においては、トヨタのe-Paletteにソフトウェアを提供するティアフォーが損保ジャパンやヤマハなど、業界を超えて出資を集めています。個々の技術や深層学習では、トヨタがPFNやALBERT Inc.に出資していますし、配車サービスではトヨタがUber、Didi、Grab Taxi、Japan Taxiに、GMがLyftに、それぞれ出資しています。ダイナミックマップは自動運転の発展に必要な技術ですが、日本でいうとダイナミックマップ基盤株式会社に各OEM、ゼンリンが出資していますし、ヨーロッパではドイツのダイムラー、BOSCHやコンチネンタル、日本のパイオニアがHEREに出資しています。MaaSアプリはフィンランドのWhimが有名ですが、デンソーが出資していますね。このように、全体業界の垣根を越えたM&Aが活発です。

北川:野辺さんはいかがでしょうか。

野辺:ここから5年程度でEVと自動運転を開発するのに世界全体で30兆円が必要だと言われています。ところがこれらを開発している自動車企業の売上を全部足しても200兆円程度。だいたい、利益率は平均高々5%ですので多くても10兆円、つまり産業として3年分の利益を投入しなければ開発出来ないということです。そうなると、当然個社では賄えないし、開発が各社で重複すれば無駄な投資になりますので、もはや競合他社とでも提携せざるを得ないと考えるのは当然の流れでしょう。

PSAとFCAの統合の動きがあります。EVと自動運転の開発で、フォルクスワーゲンとフォード、ダイムラーとBMWも提携関係を強化しています。GMはCruise、フォードとフォルクスワーゲンはArgo AI等のスタートアップを使って自動運転の開発を進める流れがあります。一方、自動車産業のトップ10社の時価総額は平均すると売上の30%程度で60兆円程度しかないのに対して、テックカンパニーは往々にして売上の数倍の評価額になっており、例えばAlphabetの時価総額は売上の6倍程度で90兆円以上の評価額になっています。自動車会社が売上から開発投資を捻出せざるを得ないのに対して、テックカンパニーは売上より大きな企業価値額を利用し、資本を利用して開発投資を行う事ができます。こうして、自動車産業はEV化や自動運転化で極めて重要な経済の構造的変化に直面している状況があります。

技術面・法律面のプロが考える移動の進化とは

北川:最後となりますが、本カンファレンスのテーマは「移動の進化への挑戦」ですので、お二人が考える移動の進化とはどういうものか、お伺いできますか。

佐藤:自動運転については法規制の検討や法改正が進んでいますが、電動キックボードについてはまだこれから。道路交通法で車両に該当するのは、自動車と原付、軽車両、トロリーバスと大きく4つのカテゴリーのみです。新しいカテゴリーがないので、電動キックボードは原付に分類され、免許やヘルメット、車検等が必要とされています。無人のデリバリーロボットなど、想定していなかった新しいものが誕生してきていますので、今後どのような法規制を敷くべきかを考えていかねばなりません。そうすることで、野辺さんが示したような未来に近づいていくのではないかと考えています。

野辺:ここにTier-IVの動画があります。白線がない道路でも走行できるなど、技術は加速的に進化しています。日本ローカルな道路事情への対応もしている訳です。海外でもリーダー企業では最近、想定外な状況が無ければ非常によく走れる様になって来ました。逆に、事故は概ね、周りの車が予想外の動きをする、あるいは人が横断歩道じゃないところを横切るなど、周りがイレギュラーな動きをした時に起こり、そうした予測や対処に開発の重要性が移行してきています。そうした意味では、周囲に交通ルールをしっかり守ってもらえれば事故のリスクが相当軽減される可能性があります。そこで交通ルールの厳格化も同時に検討すべきか、という考えもあります。一方、法律を厳格にすると嫌がられたり、逆効果になったりということも往々にして起きてしまう。

例えば、一般ドライバーの多くが法定速度40kmの道路を50kmで走る中、自動運転車が時速40kmで走っていたらどうなるか。これでは逆に危険を招きます。自動運転は、その道路において最適な速度を算出できますので、ペースメイカーとして速度基準に設定するのはどうかという議論もあります。現在、40km制限でも50kmのほうが適切だと自動運転が証明するかもしれません。結果的に50kmのほうが安全であると証明できれば、法定速度50kmに変えれば良いと考えられますし、そうしたルール自体の緩和もあれば、交通ルールを守る人も増えるかもしれません。

自動運転は想定以上に実現が近づいていますので、法律や制度、開発会社の協調関係、実証実験の協調関係、これらの整備が非常に重要になると考えています。